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ブリオナ・テイラーさんに何が起こったか(2020年BLMデモ)

 2週間の隔離期間が終わり、社会復帰中です。この間、大坂なおみ選手が全米オープンで大躍進してました。警官による黒人犠牲者の名前を書いたマスクも話題になっていますよね。彼女の活躍により、日本では少し関心が薄いかな?と思われたBLMについても多少の光が再び当てられたようです。

 彼女のマスクに書かれた名前はジョージ・フロイド氏を含め、以下の通りです。

 1回戦 ブリオナ・テイラーさん
 2回戦 イライジャ・マクレインさん
 3回戦 アーマド・オーブリーさん
 4回戦 トレイヴォン・マーティンさん
 準々決勝 ジョージ・フロイドさん
 準決勝 フィランド・キャスティルさん

※次は誰の名前でしょうね?とゲームぽく当てに入ったテレビコメンテーターが、不謹慎と非難を受けたようです。でも13日の決勝の名前は気になりますよね!

準々決勝までの人物については、BBC Japanの記事が簡潔に説明してくれています。

大坂なおみ選手がマスクでアピールする、米黒人犠牲者たち (2020.9.9. BBC Japan)

 ここでは、1回戦で登場したブリオナ・テイラーさんについての詳細を書こうと思います。彼女については、7月の記事「Black Lives Matterデモを横から見てみた2」でチラリと触れたきりでした。写真はBLMデモの熱がまだ冷めやらぬ頃、近所を散歩している時に私が撮影したものです。フロイドさんのように、警察により理不尽に命を落とした人々の名前が歩道に書かれています。テイラーさんの名前は上から2つ目、見えるでしょうか。大坂選手のお陰で彼女の名前が注目を浴びているので、この機に書いてしまおうと思います。主な情報ソースはWikipedia、ニューヨークタイムズ、ABCニュースです。

 ブリオナ・テイラーさんはケンタッキー州ルイヴィルに住む、26歳の医療従事者でした。事件が起きたのは2020年3月半ばの深夜です。恋人と彼女が仲良く眠っていた時、警察が突然押し入り、恋人ケネス・ウォーカーさんと銃の撃ち合いになりました。最初に撃ったのはウォーカーさんの方で、警官一人が怪我をしました。警察はそれに応じて20発以上撃ち、ブリオナ・テイラーさんに5発が当たりました。(銃を持っている方を狙いそうなものですが、なぜ女性に集中したのかは謎です…)

 警察が彼女のアパートに押し入った理由は、彼女の元カレが麻薬の売人だったからです。警察は彼女と売人にまだ繋がりがあると考え、テイラーさんのアパートも捜査することにしたわけです。結果的にアパートから麻薬は出てこず、ブリオナ・テイラーさんは亡くなりました。しかも事件当日、この元カレは10マイルほど離れた所で捕まっていたといいます。テイラーさんは濡れ衣により、警官に一方的に射殺されてしまったのです。

 なぜウォーカーさんは警官相手に銃を撃ってしまったのか。ここで警察と被害者の証言に食い違いが生じます。ウォーカーさんは「夜中に激しくドアをノックする音がして、ブリオナはすっかり怯えていた。『誰?』と尋ねても返答なしにドアが壊れそうな勢いで開けられた」と証言しています。だから侵入者と思って撃ったのだと。警察の言い分は「ドアを開ける前にノックして警察と名乗った」です。いずれにせよ、ウォーカーさんに名乗りが聞こえなかったのは確かなようです。救急車を呼んだ時の彼の音声が残っています。「誰かが侵入してきていきなり撃たれて…傷がどこにあるかわからない、彼女はうつ伏せで…ああブリ(オナ)…」。「ずっと警戒しなければならないしんどさ」という記事にも書きましたが、黒人の方が警察に抵抗するって、相当な覚悟が必要のはずです。もし警察とわかっていたら銃を撃っていた可能性は相当低いのでは?と感じます。

 ウォーカーさんはその場で逮捕され、5月まで釈放されませんでした。しかも理由はコロナ感染への配慮。一方で警察側は、侵入した警官の内1人は免職にしたものの、審議は依然として続行中。事件から数日で警官に処分を下し始めたジョージ・フロイドさんの件に比べると、かなり緩慢な動きです。

 それでもフロイドさんの事件をきっかけに、ブリオナ・テイラーさんや他の黒人犠牲者の名前が大きく取り沙汰されるようになりました。それまでも話題にはなっていたものの、フロイド事件のインパクトはやはりすごかった。彼女は雑誌で特集まで組まれるようになりました (The Ophra Magazine 2020年9月号)。両者の違いはビデオの有無が理由ではないかと言われています。

 フロイドさんが警官に呼び止められてから首を抑えつけられ絶命するまでの全てを撮影した、一般人による映像が公開され、世界中に拡散し影響を与えました。複数人数による動かぬ証拠です。8分43秒にわたり首を抑えられ、「I can't breathe...(息ができない)」と言いながら彼が動かなくなっていく様は、人々に大きな衝撃を与えました。

 一方でテイラーさんの場合は、事件を映した動画は存在しませんでした。警官が記録のため身につけているボディキャム(カメラ)を誰一人つけていなかったというのです。提出されたのは、銃撃の跡を示す200枚ほどの写真。警察が身内を本気で守る気なら、言いぬけられそうな感じがします。ABCニュースで、テイラーさん母のインタビューを見ていたら、ええっ?と思う証言がありました。「(娘の彼氏の)ケネスから夜中に電話があり、ブリオナが撃たれたと言うから慌ててアパートに駆けつけました。でもドアは閉まっていて、翌朝11時頃まで待っていたら警察が来ました。『もうすぐ入れると思います。娘さんは中にいます』と言われました」。嘘や〜ん。こんなバレバレのこと、よく平気で言うな。お母さんは「ケネスは口にできなかったけれど、彼の口調から娘が死んでいることはわかった」と言っていました…。警官だって色々な人がいることはわかっています。それにしても、誠実さに欠けるにも程があるのではないか。

 ちなみに、大坂選手の準決勝マスクのフィランド・キャスティルさんも、ひどい殺され方をしています(ABC Philando Castileで検索すると動画が出てくると思います)。2016年の事件ですが、警察が彼の車を止めて運転免許を見せろと求めた時、彼の所持していた銃が警官の目に入ったがため、7発もガンガンガンガン撃ち込まれていました。映像で見た時には、あまりの激しさに声を上げてしまいました…。

 なぜこうなってしまうのか。警察が危険と隣り合わせの仕事をしているにしても、警官にもとても優しい人がいることも、理解はしますが起きる事件の暴力性が激しすぎます。警官側のメンタリティも理解する必要があるのではないでしょうか。ここよりの課題としたいと思います。

 まずは大坂なおみ選手の応援をしましょう!

※追記(2020.9.16.)  大坂選手、優勝おめでとうございます! ルイヴィル市とテイラーさん遺族との間では、賠償金による和解が成立したようです。なお、彼女に当たった銃弾数を5発と書きましたが8発の方が正確な情報のようです。迷って少ない方を書きましたが調べ不足でした。お詫びします。

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