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おじいさんになっても、また千駄ヶ谷で一緒にサッカーを観ようぜ

小さい頃の家族との思い出、10代の思い出が詰まっている場所と言えば、国立競技場が頭に浮かぶ。
東京でサッカー少年として育った人の中には、そんな人が多いのではないだろうか。
少なくとも自分は、また一緒に過ごしていた同級生たちはそうだったと思う。

小学生の頃は、家族でJリーグを観に行くことが多かった。応援し始めたマリノスが国立でホームゲームを開催する機会、はたまたアウェイチームとして戦う機会があったからだ。その頃は、アントラーズなどの人気チームが国立でホームゲームを開くことがよくあった。
そういう背景に加えて、Jリーグ開幕から今に至るまで、東京を拠点とする強いサッカーチームがないこともあって、都内で育つサッカー少年たちが贔屓にするチームはバラバラなったように思う。ジュビロやレッズを応援する友だちと、試合の翌日によく揉めた記憶がある。

中学生になると、所属していたサッカーチームのコーチからチケットをもらって、クラブワールドカップや大学サッカーなど、タイトルをかけたトーナメント戦を観に行った。
隣の席には、ほとんどの試合で以前noteで書いたことがある、岩田という友だちが隣に座っていた。岩田はジュビロが好きで揉めることもあったけれど、お互い中立の立場で観戦できる試合では、仲良く国立のスタンドでカップラーメンを啜りながらサッカーを観た。
試合中にご飯を食べても腹が減って、帰りに千駄ヶ谷駅の立ち食い蕎麦屋でよくきつねそばを食った。


高校生になってからは、部活のチームメイトと一緒に高校サッカーを観に行った。
全国制覇をかけて戦う同世代の姿は、地区予選を一瞬で敗退するチームにいた身からすると、生で観ていてもあまり現実味がなかった。大迫は半端なかった。
一度、入場前にチケットを失くしてしまったことがあって、そのときは人混みに紛れてなんとかスタジアムに侵入したことがあった。この前、久しぶりに部活仲間と会った時に、その時の思い出話に花が咲いた。

そんな思い出が積み重なっているのが、旧国立競技場だった。
その場所に最後に行ったのは、大学生を卒業する年の元日だ。
マリノスが天皇杯決勝を戦い、見事優勝した。
正月の寒空の下で歓喜の瞬間を迎えたその日は、今までで過ごしてきた元日の中で1番幸せだった。


旧国立競技場が取り壊されてしばらく経ち、東京オリンピックに合わせて新しい国立競技場が出来上がった。

国立競技場がなかった期間は、どこか物足りなかった。
日本代表戦も、ルヴァンカップや天皇杯、高校サッカーの決勝戦の会場も、全て国立競技場ではない場所で行われていた。
何度見ても、それらが国立ではない場所で行われているのは、すごく違和感があった。

だからこそ、新しい国立競技場が出来上がった時は「ようやくこの時が来た!」とワクワクした。
できるまでに悪い意味でニュースになることも多かった場所だけれど、マリノスの試合が開催されることが決まった時には、早くその試合が来ないかと心が弾んだ。

しかし、昨年の夏にはじめて足を踏み入れた国立競技場は、好きになる要素が少ないスタジアムだった。座席幅が狭くて通行するのにも苦労するし、スタンドの座席のデザインもあまり格好良くないし、試合も観づらい。大好きだった古い国立競技場にセンチメンタリズムを感じていることもあるけれど、それを差し引いてもガッカリした。

そんな風に思いながらも、先月岩田と2人で新しい国立競技場に試合を観に行く機会があった。
岩田は、その日が新しい国立競技場にはじめて足を踏み入れた日で、スタジアムの中に入ってからしばらくすると、僕と同じような不満を漏らしはじめた。
スタジアムの売店も試合が始まるよりずっと前に売り切ればかりで、1,000円を超える大してうまくもない、ボリュームも多くない弁当をぶつぶつ文句を言いながら2人で買った。

しかし、隣り合わせでウォーミングアップを観ながら弁当を食べて、試合が始まってしばらくすると、段々と懐かしい気持ちになってきた。
中学生の頃から、僕らはスタジアムにいる時はお互い口数が少なくなる。試合中はそれぞれ独りの世界に入り込んでサッカーを観る。
2人とも、あの頃と変わらないスタイルで、国立という場所でサッカーを観ていることに、少し嬉しくなった。

帰りは、2人で千駄ヶ谷駅まで歩いた。
新しくなった千駄ヶ谷駅を見て新しくなったなあと思っていると、岩田も同じ言葉を口にした。
よく試合帰りに立ち食い蕎麦を食べたことも覚えていて、「でももう食えないよな」と笑った。2人とも、10代の頃よりお腹周りがだらしなくなって、だけどその割に食べる量は少なくなった。


僕は小さい頃から、国立競技場に通い続けてきた。千駄ヶ谷駅で降りて、これから試合を観られることに心を弾ませて、スタジアムまでの道を、家族や友だちと歩いてきた。

散々新しい国立競技場の悪口を書いてしまったけれど、これからも僕はことあるたびに千駄ヶ谷に足を運び、国立競技場でサッカーを観ることだろう。いつかもっと歳を取っておじいさんになったときには、また岩田と一緒に国立でサッカーを観るなんて機会があれば、それは最高なことだなと思う。

そして、いま都内でサッカーに夢中になっている少年たちが、気軽に足を運べるような場所に、新しい国立競技場がなってくれたら嬉しい。数年後、数十年後になっても笑い合えるような思い出を、サッカー仲間とともに作って欲しい。

虹 / ELLEGARDEN

<太・プロフィール> Twitterアカウント:@futoshi_oli
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗などを経て、会社員を続ける。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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