腹痛

健康診断などで最初に記入する体調に関するチェックシート。
あの中にいつもどうしても回答に困るものがある。

それは、「腹痛の頻度」である。

大抵の場合、その項目は
1.週に1回
2.月に2~3回
3.数か月に1,2回
4.一年に1,2回
5.ならない

みたいなものだ。うろ覚えだが大体こんなもんだろう。

この項目を見ると、いつもこう思う。

「少なくない?」

驚愕だった。
というのも、私はここ十数年、ほぼ毎日腹痛に襲われているのだ。
みんなそんなもんなのだと思うくらい、私にとって腹痛とは通常の体調なのである。
腹が痛くない日というのは、戸愚呂弟の100%中の100%くらいの無敵感があるものなのだ。みんないつもそういう感じで生きてたりするの?

そんな腹痛だが、私も完全に放置していたわけではない。
きちんと内科に行ったことがある。

あれは中学二年生のことだった。
そのころから、私は毎日のように腹痛に襲われていた。
学校に行くまでの通学路はさながら水を求めて砂漠を歩く旅人のように心もとなかったし、授業中に痛くなったらただ我慢するのみならず、それに伴う屁の誘発に耐える必要があった。

中学生の放屁は、その後の生活の終わりを意味する。
一撃でカーストから弾かれる、製造元に仇なす最低最悪の音響兵器なのだ。

そういった日々を送っていたことで、私はいつしか屁の音を完璧に消し去る術を習得したのだが、根本的な解決には至っていない。
ある日、そんな日々に耐えかねて私は単身、内科に赴いた。

色々と診断が終わり、医者が言った。

「過敏性腸症候群だと思うんだよね~」

過敏性腸症候群。なんだか仰々しい名前だと思った。
というかなんか軽く言ってくれるものだ。こっちは本気で悩んでるのに。

続けて医者が言う。「なんかストレスとかある?」
私はひいき目に見ても明るい青春を送っていたとはとても言えない生活を送っていたので、あてはまる節はビンビンにあったが、なんとなくはぐらかした。

ここで、過敏性腸症候群というものについて簡単な説明をしておく。
過敏性腸症候群とは、特別な病気がないのにお腹の不調が続く病気である。
ストレスとの関連が深く、日本の10~15%程度の人が抱えているものらしい。
要するに、ストレスで激烈に腹を壊す病気である。

閑話休題。そして医者は最後に言った。
「周りのストレスを減らしていってね」

ムズすぎない?

いや、


ムズすぎんか?????

そんなん可能なの?何で病院で自力の解決を求められてんの?
というかストレスなんて毎日減らそうと苦心してるわ!


・・・まぁ、そうとしか言えないのだろう。
メンタルが原因の病気なので薬があるわけでもないだろうし、実際ストレスが原因ならそれを減らせというのは至極まっとうな話である。

しかし、ストレスを減らせと言われても困ったものだ。

当時の私は絵に描いたような陰キャのヲタク君であり、学校生活をどうこうできるような力なんてあるはずもなかった。

かといって家が安心できる場所というわけでもなかった。
数年前に両親が離婚し、それまで専業主婦だった母が仕事を始め、母も家庭もかなり余裕のない状態になっていた。
残りの家族である兄ともその頃仲が悪く、数年間口を利かない日々が続いていた。この問題は私が高校を卒業するまで続くことになるが、それはまた別の話。

私の生活拠点である学校と家、そのどちらもストレスの軽減に向くことはなかった。

そしてそのまま中学も終わり、高校に入っても生活の質がさほど変わることはなかった。

大学に進んでも、腹の調子は一向に改善せず、もう社会を目前としている。


こんな散々な腹痛との生活だが、最近思うことがある。

私の人生に最も長い間寄り添ってきたのは、この腹痛なのではないかと。

しみったれた学校。
一人きりの実家。
より一人の一人暮らし。
億劫な外出。

どの場面にも、そこにはいつも私と、腹痛がいた。

記憶力の悪い私は、おそらく多くの思い出を忘れてしまったが、腹痛の痛みはいつも私の中にあり、それらは間違いなく生きた思い出だ。

これからもきっと、この痛みと生きていくのだ。
私の生きた証は、この痛みとともにあるのだ。


そう思いながら、私は今日も正露丸を飲む。










やっぱり普通に腹痛ってムカつくわ。
チェックシートをどうしたらいいかもわからんままだし。
司る神がいるとしたらウンコとか漏らしてほしい。飲み会の帰りとかに。

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