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化学産業とSDGs 「15.陸の豊かさも守ろう」

日化協SDGsタスクフォース資料の「関連する化学産業の活動」
工場周辺の環境整備などを通じて生物多様性への取り組みを行っている。砂漠化対応素材(吸水性ポリマー)の供給を通じて陸の環境保全に貢献している。

吸水性ポリマーを利用した森林保全への取り組み

SDGsに関する日化協タスクフォース資料を見るまで、吸水性ポリマーが砂漠の緑化に使われているとは知りませんでした。吸水性ポリマー世界大手の日本触媒のサイトでは、吸水性ポリマーを利用した森林保全への取り組みが紹介されています。

実は吸水性ポリマーの土壌改良剤としての使用は1970年代から始まっておりました。


国際緑化推進センターの高橋氏の論文から引用します。
「日本はドイツと並ぶSAP製造大国であり、より一層の用途拡大が模索されている。その一つが土壌保水材や砂漠緑化資材である(特許庁2015)。・・・「もともとSAPの開発のきっかけはおむつではなく、土壌保水材にあった。1950年代に米国農務省が土壌保水材の開発を手掛け、有機高分子合成品の一部に多量に水を吸う性質があることを見出した。1979年代後半、同様の高分子を開発した日本企業の製品が紙おむつに利用されたという。紙おむつの需要が増加した1990年頃、SAPを土壌保水材に使う試験が日本でも行われている。当時の学会誌をみると、SAP添加土壌の性質を調べた多くの研究論文に行き当たる。現場の栽培試験も行われたようであるが、報告は少なく、現在ほとんど参照できないのは残念である。先進的に取り組まれたのに、なぜSAPはあまり利用されないのだろう。
 筆者は最近、SAPの研究論文をレビューした(高橋ら2018、高橋ら2020)。日本では見捨てられたようなSAPであるが、海外では近年多くの論文が発表されている。農業分野の研究が多いが、林業や緑化分野でもSAPが利用されている。」

もともとのSAPの用途が土壌保水材であったこと、またSAP製造大国の日本では土壌保水材として開発はそれほど進んでいないことがわかります。ここからは私の推測ですが、そもそも水が豊かな日本では土壌保水材の国内需要が大きくなく、開発を進める動機付けが乏しかったのではないでしょうか。

大豆栽培の森林破壊への影響

森林など緑の自然環境保全のために化学産業ができることを考えるにあたり、緑を失わせているものは何かを考えてみましょう。近年のアマゾンの森林破壊の原因として挙げられているものは「大豆栽培」です。

ブラジルの大豆栽培はアメリカを抜いて世界一。米農務省の調べでは、2020/21年度の世界の生産量3.6億トンのうちブラジルは4割近い1.4億トン。半分以上が輸出され、食用油として消費されています。ブラジルを大豆生産大国にした背景には日本の技術協力がありました。

なぜ日本が技術協力したのか。それはかつての大豆不足がきっかけでした。1973年に起こった低温の異常気象で大豆は世界的な凶作になり穀物相場が高騰。当時のリチャード・ニクソン大統領が大豆の緊急輸出禁止措置をとりました。輸入の約7割をアメリカに依存していた日本は「豆腐が食えなくなる」「味噌がなくなる」と国内は大騒ぎになり、首相としてブラジルを訪問した田中角栄が、当時のエルネスト・ガイゼル大統領に共同の農業開発プロジェクトを提案しました。1979年から総面積2億0400万ヘクタールの荒れ地だったブラジル中部のセラード地域の農業開発協力事業が始まり、今では、世界一の大豆生産地帯となりました。

大豆による森林破壊を止められるか

大豆による森林破壊を止めるには、大豆の産地をたどって、違法に栽培された大豆を買わないことが第一ですが、これがなかなか難しい課題です。末端農家に近づくほど零細業者になり、システム的な管理が困難になるからです。

森林破壊だけでなく、小児労働などの人権侵害も懸念されており、大豆の調達網の管理は喫緊の課題となっています。食用油大手の不二精油は大豆のサステナブル調達に向けて指針を公表しました。「第一次集荷場所までのサプライチェーンの把握」など具体的なアクションが記載されていますが、その試みは緒についたばかりです。今後の展開に期待しましょう。


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