リチウムに関する最近のニュース(2022年2月分)
需給ギャップの悪化
リチウムの需給ギャップの拡大とスポット価格の上昇は続いています。炭酸リチウムのスポット価格は現在430,000元/トンまで上昇し、2021年初めの8倍になっています。2月16日のロイターのレポートでは、リチウム不足により脱炭素に向けた「緑の革命」が遅れることになると警告しています。
国別のリチウム生産量の変化
投資家向けのチャートを提供しているこのサイトで、Govind Bhutada氏は様々なリチウム関連のビジュアルチャートを提供しています。リチウムの統計は一般に炭酸リチウムの重量で表現され、LCE(Lithium Carbonate Equivalent)と呼ばれていましたが、国別のリチウム生産量の変化を示すこのチャートでは金属リチウム量で示されています。金属リチウム量は同じリチウム量に相当する炭酸リチウムの約5分の1になります。リチウムの生産量は、電気自動車向けのリチウム需要のため2016年から2020年の間に40000トンから2倍以上の86300トンに増加しました。オーストラリア、チリ、中国の3国で2020年の世界生産量の86%を占めています。
リユース・リサイクル事業
リチウムが高騰した結果、リチウムイオン2次電池のリユースやリチウム材料のリサイクルに参入する企業が相次いでいます。リチウムの回収としては、冷凍機に使われている臭化リチウムは以前から専用ルートで回収されています。またかつて中国ではブチルリチウムを利用した有機合成廃液からもリチウムが回収されていました。リチウム回収のシステムが確立して、持続可能なリチウム利用が実現することが期待されます。
代替原料の現状
現在リチウムイオン2次電池に使われている材料の代替品を探す研究も引き続き活発です。現在の主な構成要素はリチウム、コバルトおよび炭素材料ですが、下記のレポートではリチウムの代替材料としてのナトリウム、海水からのリチウム抽出、マグネシウム、鉄、そしてグラファイトの代替もしくは添加材料としての麻(!)とシリコンの現状がまとめられていますが、いずれも実用化の道は遠いようです。
ブチルリチウムの収益性
ブチルリチウムは合成ゴムの重合開始剤や医農薬製造における強塩基として使用されており、リチウムイオン二次電池が登場する前はリチウムの最大用途の一つでした。。ブチルリチウムのサプライヤーはアルベマール(米)、ライベント(米)、ガンフェン(中国)などです。ライベント社の2021年の4四半期報告における質疑が公開されていますが、ブチルリチウムについては「ブチルリチウムの原料である溶剤とリチウム金属コストがますます上昇し収益予測が困難」「コストは価格の値上げを通じて顧客に転嫁される」「ブチルリチウムと金属ベースの製品は成長しないが、我々は多様化を望んでいる。」とコメントしています。
水素化リチウムを用いた常圧アンモニア合成
アンモニア合成を行うためには窒素分子の三重結合を解離させる必要があります。ハーバー・ボッシュ法は高温高圧が必要であり、現在でも遷移金属などを用いた温和な条件での窒素固定が活発に研究されています。一方で、リチウムが常温常圧で窒素と容易に反応することは、あまり知られていないかもしれません。金属リチウムを放置すると、空気中の窒素と反応して窒化リチウムに変化してしまいます。従って金属リチウムを容器に封入する際には窒素ではなく、アルゴンが使われます。
6Li+N2→2Li3N
リチウムと窒素の反応性を利用して、広島大学の研究チームはLiHを用いたケミカルルーピングによるNH3合成プロセスを開発しました。リチウムは触媒ではありませんが、水素化リチウムとリチウムイミドの間を行きかう(ループする)ので、ケミカルルーピングと呼ばれます。従来問題であった反応後のリチウムイミドの凝集が、酸化リチウムの添加で抑制されることが見いだされ、実用化に近づきました。
水素化リチウムによる窒素分子の解離:LiH+N2→2Li2NH+H2
アンモニアの生成と水素化リチウムの再生:2Li2NH+4H2→2NH3+4LiH)
リチウムが燃える色は
2月10日の朝日新聞の天声人語に「リチウム」が登場しました。銀河鉄道の車窓から見るサソリ座の星を「リチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えている」と書いた宮沢賢治。リチウムの色を知らなかった天声人語の筆者は、科学の出前講義で実際にリチウムの炎色反応を見て「長年のモヤモヤが一瞬で消えた」と書いています。鮮やかな紅色がリチウムの炎色反応の色です。
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