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化学産業とSDGs 「3. 全ての人に健康と福祉を」

関連する化学産業の活動(日化協SDGsタスクフォースより)
医療機器関連素材や医薬原料・原体の提供により、医療の進歩に貢献している。また、GPSなど の化学品安全活動により、有害化学物質による健康被害の防止を行っている。

 化学産業が供給する医薬品により、様々な病気の治療が可能となり、世界中の人々が恩恵を受けています。しかし、開発途上国や急速な経済成長を続けている新興国では、貧困や医療制度の未整備などの事情により、必要な医薬品や医療サービスが必要としている人々に届けられないという問題があります。これが「医薬品アクセス(Access to Medicine, ATM)」の問題です。特に熱帯地域には貧困層を中心に寄生虫病、感染症が蔓延していますが、これらの疾病に対する製薬企業の取り組みはこれまでは十分なものではなく、「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases, NTD)」と呼ばれてきました。

Japan alliance on Global NTDs (JAGntd)の活動

 医薬品アクセスの問題については、長崎大学熱帯医学研究所が設立したJapan alliance on Global NTDs (JAGntd)が様々な啓発活動を行っており、この問題についてyoutube動画で分かりやすく解説しています。

医薬品アクセス財団によるTop 20 AtM ランキング

 医薬品アクセス財団(The Access to Medicine Foundation)は英国政府、オランダ政府およびビル&メリンダ・ゲイツ財団が資金を提供している独立非営利研究財団で、グローバル大手製薬企業を対象に医薬品アクセスに対する取り組みを評価した格付けを2年おきに実施しており、上位20社はスコアとともに順位が公表されています。このランキングはメディアでもしばしば取り上げられ、製薬企業の社会的評価に影響を与えています。また投資会社のインデックスに採用されるなど、資金調達面でも一定の影響力を持っています。上位20社に入る日本企業は2008年はエーザイのみでしたが、2021年は武田、エーザイ、アステラス、第一三共の4社が選ばれました。これらの企業の「医薬品アクセス」への取り組みについてご紹介します。

ATM Ranking 2021

武田薬品

 武田薬品はウェバー社長のリーダーシップのもと、日本で唯一ATMの専門チームを持つなど、積極的に医薬品アクセスの改善に取り組んでいることが評価され、日本企業では最高の6位にランクされています。

エーザイ

 エーザイは30年前からヒューマンヘルスケア(hhc)をビジネスのフィロソフィとしており、現在のATMの考え方を先取りするものとして高く評価されています。寄生虫により発症するフィラリア症(象皮症)の薬であるジエチルカルバマジンの製造や、マイセトーマという風土病に対する新薬ホスラブコナゾールの臨床試験を通じて、医薬品アクセス向上の取り組みを進めています。

アステラス製薬

 アステラス製薬はAccess to Healthというキーフレーズで、医薬だけでなく健康そのものにアクセスするという基本的な考え方を提示しています。2016年には熱帯の寄生虫病であるシャーガス病の治療薬創出に向けて、産業技術総合研究所との共同研究を開始しました。

第一三共

 第一三共はがん領域に強い製薬企業として、がん製品への医療アクセス改善や地域医療基盤強化といったアプローチを打ち出しています。具体的にはネパールで乳がん・子宮頸がんの定期検診のプロジェクトを開始し、予防・早期発見の重要性を啓発しました。

ビオンテックのワクチン製造コンテナ

 発展途上国におけるコロナワクチンの流通と普及が課題となっています。WHOは国際的なワクチン分配のために「COVAX(COVID-19 Vaccines Global Accessの略)」の枠組みを作り、途上国でのワクチン接種を支援していますが、目標は達成されていません。独ビオンテック社は、新型コロナウイルスワクチンを製造できるコンテナ工場「Biontainer」をアフリカに輸出すると2022年2月に発表しました。2023年にも現地でワクチン生産を開始する計画です。製剤の流通ではなく、製造を現地で行えるようにする新たな取り組みとして注目されます。


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