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化学産業とSDGs 「10.人や国の不平等をなくそう」

日化協SDGsタスクフォース資料の「関連する化学産業の活動」
グローバル展開において新興国における雇用を創出している。

SDGsと化学産業について考えるシリーズを続けておりますが、非常に難しいテーマが来ました。日化協タスクフォースでは、新興国における雇用創出を例として挙げています。化学産業は不平等の問題解決にどんな貢献ができるでしょうか。まずはSDGsテーマのターゲットを見てみましょう。目標10では以下の全9つのターゲットを定め、不平等の是正を目指しています。

  • 10.1  2030 年までに、各国の所得下位 40%の所得成長率について、国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させる。

  • 10.2  2030 年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。

  • 10.3  差別的な法律、政策及び慣行の撤廃、並びに適切な関連法規、政策、行動の促進などを通じて、機会均等を確保し、成果の不平等を是正する。

  • 10.4  税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成する。

  • 10.5  世界金融市場と金融機関に対する規制とモニタリングを改善し、こうした規制の実施を強化する。

  • 10.6  地球規模の国際経済・金融制度の意思決定における開発途上国の参加や発言力を拡大させることにより、より効果的で信用力があり、説明責任のある正当な制度を実現する。

  • 10.7  計画に基づき良く管理された移民政策の実施などを通じて、秩序のとれた、安全で規則的かつ責任ある移住や流動性を促進する。

  • 10.a  世界貿易機関(WTO)協定に従い、開発途上国、特に後発開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施する。

  • 10.b  各国の国家計画やプログラムに従って、後発開発途上国、アフリカ諸国、小島嶼開発途上国及び内陸開発途上国を始めとする、ニーズが最も大きい国々への、政府開発援助(ODA)及び海外直接 投資を含む資金の流入を促進する。

10.2の「年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。」のターゲットから、化学産業における「採用・登用の多様性」について調べてみました。

日本の化学産業の役員における男女比

まずは日本の化学産業の役員における男女比です。下記の記事によると、業種別で1社あたりの女性役員数が最も多いのは「保険業」です。これはわかりますね。次いで女性役員比率が高いのは、意外にも「石油・石炭製品」です。「石油・石炭製品」は製造業の中では最も女性社員比率が低いのですが、その分を社外からの人材で補っているそうです。化学はちょうど全業種平均と同じでした。

米国における黒人化学者

人種の問題はどうでしょう。2021年のNature Chemistryには、化学の専門職における黒人の問題についての論文が掲載されました(Nature Chemistry vol. 13, p101–106 (2021))。黒人は米国の人口の約12.3%を占めていますが、黒人の割合は学士号取得者では7.9%、博士号取得者では4.5%、大学のポスドク研究者では3.2%、米国の上位50校の化学教授では1.6%にまで低下しています。黒人化学者が学術職へのアクセスを拒否されていることは明確であるとしています。
論文では、多くの黒人化学者の貢献が忘れられていることも紹介し、最後は次の言葉で締めくくられています。

「The chemistry community, and the scientific one more generally, must acknowledge, discuss and fight against these inequalities. The clock is ticking; the time to act is now, for everyone.
化学のコミュニティ、そしてより一般的には科学のコミュニティは、これらの不平等を認め、議論し、戦わなければなりません。 時計が時を刻んでいる; 行動する時は今、誰にとってもです。」

紹介されている化学者の一人はジョージ・ワシントン・カーヴァー(1864 - 1943)です。カーヴァーは綿の連作で消耗した土壌に窒素を補給するために、ピーナッツ、大豆のような豆科植物と綿花を交互に栽培し、窒素循環を行うことを提唱しました。そして、ピーナッツを有効に活用するため、マヨネーズ・チーズの食料品や、石鹸・接着剤や印刷用インク等の生活用品まで、300を越える新しい用途を考案しました。20世紀前半におけるアメリカの代表的な黒人化学者です。

日本もアメリカも、化学における平等実現はまだ道半ばですが、前進はしています。今後に期待しましょう。

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