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お笑い初期衝動

72.名案は降りてくるもの

「俺のペット、津川雅彦にしよかな。」

田中三球は、一体何を言ってるんだ??
ネタ作りに煮詰まって気でも狂ってしまったのかと一瞬戸惑ったが、そうではない。

田中三球が、続けて言った。

「この津川雅彦の顔写真を拡大コピーして、厚紙に貼り付けて、手で持ってやったらええんちゃう?」

僕のペットがキティのぬいぐるみ、の時点でだいぶおかしなネタだったのだが。
「津川雅彦の顔写真をペットに」という、キティが遥かにかすんでしまうほどのシュールな案を、田中三球は発したのだ。

しかも驚くべきは、雑誌をなにげなく見ながらというそのタイミングだ。

ネタ作りというものを、「机に向かってひたすら真剣に考えてこそいいネタができる」と、当時の僕は思い込んでいたのだが。

田中三球は、決してそうではなかった。
彼の名案は、なんでもないタイミングで"降りてくる"。いつもそんなふうだった。
まるで、真剣に考え込む芸人をあざ笑うかのように。

ふとした思いつきが、数時間真剣に考えたアイデアを上回ることがある。
いやむしろ、思いつきだからこそ、今まで考えていた想定の範囲を超えてくるのかもしれない。

このことを、僕は田中三球と組む中で、大いに気づかされた。

そして、こう思った。
自分に足りない部分を田中三球から日々学び、会得していき。
奥山ツンヂの左脳力と、田中三球の右脳力。これをミックスした能力を、いつしか僕一人で持つことができたならば。
そのときは、なかなかいい仕上がりの芸人になれているんじゃなかろうか。
それが今の自分にとっての、目指すべき方向ではないかと。

同期に、運よく田中三球という男がいた。
彼から学んだことは、はかり知れない。



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