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お笑い初期衝動

110.カニの殻を調理するということ


僕と田中三球のピンネタ。
それは、スベり方の種類までも全く同じだった。と前回述べたが。

では、"スベり方の種類"とは何ぞやということを今回説明しよう。

まず、僕と田中三球のコンビ=ジルは、元々オーソドックスなことができないタイプだったんですね。
となると、オーソドックスな、いわゆる上方漫才なるものをやったとて勝負にならない。
それならば、オーソドックス芸人達が思いつかないような視点でもってネタ作りをしようと。
そこに勝機を見出だしてたんですね。

抽象的な表現だとわかりにくいと思うので、こういう例えをしてみようか。

目の前に、カニがあるとする。
これをおいしく振る舞おうと思うなら。
普通の調理人は、カニみそを食べてもらおう、脚肉を食べてもらおうと考えて調理しますよね。

でも、ジルは。
そういうオーソドックスなことはやらず、あえてカニの殻をおいしく調理しようとする
極端に言うと、そういうコンビだったんですね。

「新時代を切り開くべき若手が、カニみそ?脚肉?そんな古い調理の仕方してるの?ダサいな~。」

「やり方次第で殻がおいしくなることを、ハイセンス調理人の僕達は知ってるんですよ。あんたらは知らんの~?」

と言わんばかりの、心のマウンティング。
こんな手法がハマったときは、オーソドックス芸人達からしたら、かなり目障りな存在に映るほど、輝きを放てます。

と、ここまでは向かうところ敵なしのような書き方をしましたが。
実はこのジルの手法には、最大の弱点があるのです。
それは、共感を得にくいということです。

当然ながら、カニみそ&脚肉は誰が見てもおいしそうですよね。
そこには絶対的な共感があり、安心感があり、最低限のおいしさは外さない。
故に、カニみそ&脚肉は普通ぐらいの味でも、それなりに満足するもんです。
カニみそ&脚肉を食べて、0点の味だと思うことは、なかなかないでしょう。

一方、カニの殻を調理しましたの場合。
殻を口に入れ、それが普通の殻の味だったら、、もはや料理じゃないですよね。
ようわからんゴミを食わされたようなもんです。
そうなると、いくらハイセンス調理人を自称しようが、素人以下としか思われません。
ゴミを食わされたお客側からしたら、他とは違う視点とかどうでもいいことです。

つまりは、カニの殻を料理する調理人というのは。
殻をおいしくするという高いハードルを超えたときは、相当なる評価を得るものだが。
その反面、カニみそ&脚肉とは違い、0点をたたきだしてしまうリスクとも隣り合わせなのです。



そろそろ、お笑いの話に戻そう。

僕も田中三球も、カニの殻料理のように、変な角度からのネタ作りをしようとするあまり、気がつけば、完成度が全く追いつかなくなっていた。

養成所で披露した僕のピンネタも、田中三球のピンネタも。
カニみそではなく、あくまでカニの殻での勝負を挑み。
そして残念ながら、互いに、ゴミのようなスベり方をしてしまったのだ。




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