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お笑い初期衝動
67.ひきとめなかった理由
3人で組んでから評判が良くなったというのに、たった1回の舞台で、ドクター河合がまさかの脱退をした。
ドクター河合には独特のキャラがあり、大いに僕達の戦力になっていた。
今思い返すと、もっとちゃんと彼をひきとめるべきだったのかもしれない。
まだ半人前の僕達は、3人とも必要な存在。
1人1人の戦力があわさって、初めて成り立っていたトリオである。
それを頭の片隅ではわかっていたのだが。
それでもドクター河合を強くひきとめなかった理由は、2つあった。
1つは、前回書いた通りで。
ドクター河合の思考回路は普段から理解できない面が多々あったので、話し合いをしても無駄な気がしたということ。
それともう1つ大きな理由は。
僕と田中三球のちょっとしたプライドが邪魔をした、という面が少なからずあったように思う。
僕と田中三球はネタを書くタイプだが、ドクター河合は全くネタが書けない。
それどころかドクター河合には演技力もなく、どんなセリフも棒読みになるので、ボケもツッコミもできない。
そういったポンコツぶりがあったので、僕も田中三球も、「ドクター河合を必死にひきとめるなんてダサい」という気持ちになってしまったのだ。
ダサかろうが、ドクター河合は戦力になってたのだから、素直にひきとめればよかったのだが。
僕も田中三球も若かった。
こんな奴になんで頭下げてひきとめなあかんねん。と思ってしまった。
こういうちょっとした感情のもつれが、意外と人生を左右してしまうものなのかもしれない。
冷静に考え、必要に応じてプライドをかなぐり捨てるべき局面がある。
頑固一徹という生き方もカッコいいが、芸能人というのは売れなきゃ話にならない。
いやらしいぐらい貪欲にメリットのみを追求する人の方が、芸能界には向いているように思う。
しかし悲しいがな。僕も田中三球も、なにかとプライドを優先させてしまうタイプの頑固系芸人だったのだ。
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