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『映画:フィッシュマンズ』を観て思ったこと、思い出したこと

『映画:フィッシュマンズ』を公開翌日に、アップリンク吉祥寺で観た。7月の公開が発表されてから、同じくデビュー30周年に合わせて発売された本やCDも買って、精力的に取材を受けていた茂木さんのインタビュー記事のいくつかや、フィッシュマンズを取り上げた DOMMUNE、ポッドキャスト、ラジオもいくつか聴いて、映画公開日を楽しみにしていた。

試写会で見ていた何人かのミュージシャンたちの感想を読んで、ヘビーな部分もあるんだろうなということを察していた。
映画が始まって少しして、最初の曲『なんてったの』が流れてくると、涙がこぼれてきた。ライブやインタビューの映像をDVDやYouTubeで見たり、曲だけを耳で聴くのとは体験として違っていて、3時間弱のドキュメンタリー映画を映画館で観るのは、(佐藤さんが亡くなった頃以来で)フィッシュマンズと佐藤さんに向き合うことなんだと冒頭で感じた。その後も『ひこうき』や『ナイトクルージング』、『ゆらめき IN THE AIR』などいくつかの曲で、号泣とも違うけど涙が出てきて、スクリーンを見続けているのがつらくなるようなこともあった。

フィッシュマンズを初めて知ったのは、深夜ドラマ『90日間トテナムパブ』の主題歌だった『100ミリちょっとの』で、すごく好きになったけど当時『90日間トテナムパブ』のサントラは買ったものの、『キングマスタージョージ』は買わず……。
それから数年後に、当時よく聴いてたオリジナル・ラブ田島さんのラジオで『Go Go Round This World!』を聞いて、他にないそのポップさにやられてすごくいいなと思ったものの、その時もCDは買わず……。チャンスがあったのにフィッシュマンズの音楽との本格的な出会いを逃して、惜しいことをしていた。インターネット、サブスク以前の時代、新しい音楽と出会う方法といえば、主にはテレビ、ラジオか、CDを買うか借りるかだった。

それで初めてフィッシュマンズのアルバムを初めて聴いたのが『空中キャンプ』だった。その前にたしか、NHKのポップジャムで『BABY BLUE』を聴いた気がする。『空中キャンプ』は最初レンタルして、その後すぐ買って、そこからはそれより前のアルバムも順番に買っていった。シングルの『SEASON』以降に出たCDは、全部発売前日に買っていた(と思う)。

ライブに初めて行ったのは、ロングシーズンが出た後、1996年12月26日に赤坂BLITZであった『LONG SEASON’96~7』で、それからの2年間、東京であったワンマンと、フィッシュマンズ主催のイベント『闘魂』には全部行くことができた。当時、お店での販売の仕事をしていたので、ひと月分のシフトを決める時に、フィッシュマンズのライブがある日に必ず休みを入れることができていて、仕事の影響でフィッシュマンズのライブに行けなかった、ということがなかった。その点ではすごくラッキーだったなと思う。フィッシュマンズのライブを見て聴いた時の感じ、記憶がずっと頭に、体に残っている。

BLITZ以外でライブを見たのは野音と新宿時代のリキッドルームで、その2つの場所の印象も強く、残された映像を見るとまさに記憶が増大するけれど、音源化・DVD化されていない中でも強く印象に残っているものもある。あれはおそらく1998年3月、『低音バッシュ '98』ツアーのリキッドルーム、最初の方の『GO GO ROUND THIS WORLD!』での音楽に持ってかれるような感じは、やはりあの時のフィッシュマンズならではだったと感じている。あのように毎回ツアーごとにライブで曲のアレンジを変えるのはやっぱり大変なことだったんだということも、今回の映画でわかった。
映画を観ながら、あの頃のフィッシュマンズは本当に最高にかっこよかったなぁ、とあらためて思った。スペースシャワーTVで放送された『WALKING IN THE 奥田イズム』のライブもすごく良くて、くり返し観た。序盤の『Oh! Crime』、『なんてったの』と、終盤で『夜の想い』、『いかれた Baby』、アンコールの『チャンス』と続くところが特に好きだ。

1998年12月27、28日、赤坂BLITZでの『男達の別れ』には2日とも行った。最初の『Oh Slime』で、メンバー紹介の声が四方八方から飛び交っていた感じをずっと覚えている。あの時、会場で聴いて佐藤さんののどの調子が、それまで聴いてた時よりはよくないのかな?という印象もあった。『ひこうき』で(どちらかの日に?)自分がいた前方右側の方に佐藤さんが歩いてきて、目の前のものは見てないような、一心不乱な目つきであのギターソロが繰り広げられた瞬間のことも印象深い。

佐藤さん、茂木さん、譲さんの3人に、サポートのHONZIさん、ダーツさん(+この時には抜けていたけどエンジニアのZAKさん)というフィッシュマンズがすごく好きだったので、最後の『ロングシーズン』が終わって、終演後にビートルズの『Strawberry Fields Forever』が流れてもしばらくその場に立ちつくしていた。

その頃、入っていたファンクラブ Neri の会報や雑誌などでインタビューもよく読んでいたけど、当時そこでは語られていなかったことが、今回の映画や6月に出た本『永遠のフィッシュマンズ』にはあった。『宇宙日本世田谷』製作時やそれ以降のバンド内での葛藤などは、聞いて、読んで、そうだったんだ、と心が苦しくなるようなことも語られている。

映画の予告にも使われている、雑誌『米国音楽』用に撮影されていた海岸での写真の数々とともに『ナイトクルージング』が流れる場面は、それとは対照的だった。それまでにバンドで積み重ねてきたことと、周りの人たちも含めた体制やタイミングなどすべてがばっちり合って、自分たちがつくりたい最高のものができた、っていう頃の充実感、きらめきがあふれていた。その号の『米国音楽』に載っていて、好きだった佐藤さんの詩も、今回新装された詩集『ロングシーズン』に掲載されている。

『米国音楽』の編集長だった川崎大助さんの本、オリジナルの『彼と魚のブルーズ』は発売からだいぶ経った時に買って、最初の方しか読めてなかったんだけど、増補新版でデラックスエディション的に復刊された『僕と魚のブルーズ』を少しずつ読み進めている。映画だけで当然すべてが語り尽くされるものでもないので、併せて読むとさらにフィッシュマンズのことを知れて面白い。

2005年にフィッシュマンズが再始動した後に観たライブは、『LONG SEASON REVUE』、2011年5月(この時は、ファンクラブの会員だった人たちに先行予約的なことをしてもらえたのがうれしかった)、そして一番最近の2019年2月。見ていないライブも多いが、その時々でいろいろなトライも重ねて、主に茂木さんが歌い、時々、原田郁子さんたちも歌う、という今の形に。多くの人も言っているように、一番いい形にたどり着いたように感じる。また今年か来年くらいにでもライブがありそうだし、今後も可能な限りフィッシュマンズの音を鳴らし続けていただけたら、とてもうれしい。
そう遠くない未来に、海外でのライブの機会が実現しそうな気配もある(その時、もし可能であれば行ってみたい)。この前、ツイッターで "Fishmans" で検索してみて、今は本当に海外でも聴いてる人が多いんだなと実感した。文字どおり身を削るような部分もあって、自分たちがいいと思う音楽を追求して、今のように(そしてたぶんこれから先も)国内外で聴かれているのは本当にすばらしい。

2019年2月のライブの頃に、フィッシュマンズの映画ができるという話が発表された時には、どんな映画になるのか、はっきりとは想像できなかったけど、単にいいことづくしのフィッシュマンズ讃歌のような内容になってないのがすごい。

映画を観終わって、簡単によかったとかどうとか言えない感じだなと、かなりズシリとくるものがあった。音がいい立川のシネマシティで上映が始まったら2回目を観に行こうと思っていたけど、少し間をあけないときついかなという感じもしている(シネマシティの“極上音響”で、可能であればZAKさんによる音響の調整で、ライブDVDも上映してもらえるといいなと思っている)。

バンドでフィッシュマンズのような音楽をつくることと、今自分がしてるような仕事はもちろん違うけれど、縁やタイミングもあって集まった人たちが話し合ったり協力しながら、いいものをつくろうとしたり、何かを一緒にやって、いろいろうまくいくこともそうでないこともあって、出会いや別れもあって、という点では共通することもあるなと思った。そういう意味でも、コアなファンではない人が見ても響くドキュメンタリーになっていると思う。

とはいえ、重めのドキュメンタリーなのかなとあまり構えずに、最近のDOMMUNEでZAKさんも言ってたように、佐藤さんを神格化もし過ぎず、あの頃のフィッシュマンズと同じくらいの年代かそれより若い新しいファンも含めて、たくさん観てもらえるといいなと思う。映画を観て、小嶋さん、ハカセさんがいた5人の時代、4人の時代のフィッシュマンズもすごくすてきだったんだなということもあらためて思った。

今回、この映画をつくってもらってどうもありがとうございます、と言いたいです。

映画:フィッシュマンズ公式サイト
https://fishmans-movie.com/

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