那智の祭り(5)ー御火行事

午後2時から御火(おひ)行事が始まり、いよいよ祭りはクライマックスへ!だいたい9時頃に場所取りをしていますから、やっとという感じです。弁当もお茶も持って、待っている間に昼食を済ませます。私は一度お瀧前広場の観覧場所の最前列、石段を正面に見る場所に陣取ることができました。今はこの場所に入られないかもしれません。前にはロープが張られ、横には警備員が立っています。ある意味最も安全な場所かもしれません。携帯用の小さな折り畳み椅子に腰をおろしてひたすら待ちます。
さて一の使い、二の使い、三の使いが扇神輿の待機場所の伏拝に到着します。それに応じて扇神輿が動き始めます。お瀧参道入り口の鳥居は伏せた状態で潜り、鳥居を潜ると立てます。これからはお瀧前の祭場まで立てたまま進みます。一、二、三の使いがお瀧前に戻ると使い受けと会い答礼の所作を行います。子の使は扇神輿に戻ります。一、二、三の使い役と使い受け役は松明の火付け場所の火所(いろり)に向かい大松明に点火します。火所から大きな声があがり、その声を合図に大松明がお瀧前の広場に現れます。見物人から思わず拍手が沸き上がり、その拍手を背に石段を上がります。そして下ってきた扇神輿と出会います。お瀧参道の両側には大きな木が生えていますし、広場からは離れていますので、この出会いはちょっと見えにくいです。扇神輿と出会った大松明は円陣を描いて扇神輿に近づき炎を浴びせます。扇神輿の神役も扇子を開いて大松明の火をあおぎ扇神輿に火の粉を浴びせます。一方では火払所役が手桶の水を汲んでは大松明の火を消してまわります。その中を扇神輿は石段を下ります。炎と大松明を担ぐ松明所役と扇指しのあげる掛け声が入交り、祭りは最高潮に達します。長い間待ったことも忘れて、「来年もまた来るぞ!」と思ってしまいます。やがて大松明の火も消えかかり、火所に戻り、炎を納めます。扇神輿は興奮さめやらぬお瀧前の広場に到着します。ここで行われるのは「扇褒め神事」。いいネーミングです。褒められると神輿も嬉しいでしょうね。伏拝でも1基立てられるたびに拍手をされています。お瀧前では八咫烏帽をかぶった神職が、結びの松明にかざした「打松(うちまつ)」という削りかけの造形物を使って古伝の秘事をもって所作を行って、扇神輿の第八神鏡を打ちます。この「打松」も扇の形をしています。この儀式は17世紀初頭(江戸時代の初め)の史料によると、山内の僧房「尊勝院」を拠点とする修験者の役目であり、彼らは八咫烏帽をかぶってこの儀式を行ったとあります。明治の神仏分離でその役目が神職に引き継がれたことになります。修験者に由来する儀式なので「古伝の秘事」ということでしょうね。光ヶ峯遥拝神事にも八咫烏帽をかぶった神職が「古伝の秘事」を行いますから、この神事ももとは修験者が行っていたのでしょう。そうすると智証大師がこの峯に経典を納めたところ光を放ったので、光ヶ峯と名前がついたという伝承から、修験者が光ヶ峯を崇拝したことに由来する儀式であると理解できます。「扇褒め神事」が終わると、扇神輿は祭場に入り飾り立てられます。

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