新宮の祭りーお燈祭り(1)

この祭りも国の重要無形民俗文化財に指定されています。冬の2月6日の夜に行われます。「お燈(とう)祭りは男の祭り」と言われるように男性しか参加できません。参加者は一週間前から精進潔斎。期間中に口にするのは、白飯、かまぼこ、豆腐などの白い物に限られ、斎戒沐浴で身体を清浄にします。祭りの1週間前にはゴトビキ岩の注連縄が張り替えられます。
祭りの当日、「上り子(あがりこ、のぼりこ)」と呼ばれる参加者は白づくめの装束で市中に現れます。腰から腹にかけて荒縄を巻き、五角形の檜板にケズリカケを詰めた松明を持ち、松明には願い事を書き、上り子同士が出会うと挨拶して、松明をぶつけ合いながら、速玉大社、阿須賀神社、妙心寺を順拝して神倉神社(かみくらじんじゃ、かんのくらじんじゃ)へと向かいます。
祭りには、祭典の世話をする介錯(かいしゃく、介釈)と呼ばれる人がおり、彼らは当日の午前中に神倉神社社務所に集まり、介錯が持つ介錯棒で餅をつき、それを小分けして、藁または縄で縛った「カガリ御供」と呼ばれる供物を調整。介錯は介錯棒を手にし、背に「神」の一文字が記された白法被、草鞋履きの姿で集合し、2m近い迎火大松明を奉じて、神倉山のふもとで祓いを受けてから、大社に行って参拝します。参拝が済むと、神職らと共に行列を組みます。列の先頭は錫杖(しゃくじょう)を手にした警固、三本の御幣、カガリ御供などが収められた神饌唐櫃、迎火大松明、かつて修験者が入峯(にゅうぶ)に際して使ったという鉞(まさかり)を手にした大社神職、介錯の順。一行は参集した上り子をかき分けつつ、山上社殿に着き、火をきりだして小松明に点火します。小松明が社殿に迎えられると、社殿の扉を開いて神饌を供え、祝詞を奏上し、御幣の一本を社殿に収めて閉扉し、次いで迎火大松明の先端を鉞で割って点火し、石段途中の中ノ地蔵まで下ります。上り子たちは大松明の火を自分の松明に争って移し、山上へと向かい、全員が境内に入るのを待って介錯が入り口の木の柵を閉じます。狭い境内は立ち込める火と煙で目を開けていられないほど。午後8時ごろ介錯が木柵を開くと、上り子たちは一斉に石段を駆け下り、各自の家まで走り続けます。闇の中を上り子たちが手にする松明の火が滝のような勢いで下ってゆく様子は「下り竜」と新宮節に唄われています。
上り子たちが駆け下った後も祭りの儀式は続き、神職や介錯らも山を下って整列し、阿須賀神社に向かいます。阿須賀神社では、神職が一本の御幣を捧持し、左右左と幣を動かしながら後じさりしつつ、拝礼するという独特の所作をする奉幣神事が執り行なわれます。介錯はここで解散しますが、神職らは再び大社に戻り、第一殿前で同じ神事を行います。


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