【書籍紹介】『推薦システム実践入門――仕事で使える導入ガイド』

著者の風間 正弘さんからご恵贈頂いた下記の書籍について感想を書かせて頂きます。

風間 正弘、飯塚 洸二郎、松村 優也 著『推薦システム実践入門――仕事で使える導入ガイド』(オライリー・ジャパン、ISBN978-4-87311-966-3)

私は大学で推薦システムの研究をしているのですが、実際に現場では推薦システムがどのように実装、運用されているのか、ちょうど知りたかったところですので、非常に有り難いです。期待どおりに、現場ならではの視点や経験に基づいた内容となっていて、大変勉強になりました。以下、大学で推薦システムを軸とした教育・研究を展開している立場からの視点で感想を書かせて頂きます。

2章

推薦システム開発に必要な三つのスキルとして、データサイエンティストに求められるスキルに対応させて、ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニアリング力の観点から解説されています。このあたりは興味のある学生も多いので、学生向けに、推薦システムの研究を通して身に付けられる力としてアピールするのも良いかなと思いました。このうちビジネス力については、大学側だけで教えるのは難しい部分ですが、大学で教えられることとしたらデータサイエンス力やデータエンジニアリング力などが焦点になりますね。

また、推薦システムのプロジェクトの進め方について、課題定義から評価、改善まで七つのプロセスでまとめられています。このあたりは、演習で実際に学生に推薦システムを設計してもらう際のプロセスとして参考になると思います。特に、サービスの初期段階では、「アイテムの情報を利用した推薦システム構築から検討する」という点や「まずは簡単なアルゴリズムから実装していく」といった点は大事かなと思いました。ついつい技術ありきでやってみたくなることもありますが、まずは簡単なものでどこまでできるかを試してみるというのが大事ですね。さらに、精度検証についても「納得度」という観点から確認するということも参考になります。

3章

推薦システムのUI/UXについてまとめられています。なかなか推薦システムのUI/UXの観点でまとめられた文献はあまりないので、この章も価値があると思います。適合アイテム発見や適合アイテム列挙など、項目ごとに具体的な事例を交えて説明されていてわかりやすいです。研究室では、学生に推薦システムのインタフェースイメージを考えてもらうこともありますが、この章で挙げられている項目を出発点とすると考えやすくなるかもしれません。

5章

推薦アルゴリズムについて具体的なコードと共に説明されていて、これも非常に有益ですね。特に行列分解はさまざまな手法がありますが、主要な手法について抑えられており、比較表と共に具体的なコードが掲載されているのが良いなと思いました。MovieLensデータセットを基に解説されているので、一通りコードを試してみる価値はあると思いました。

6章

バッチ推薦やリアルタイム推薦などの話が書かれており、このあたりは実務で実装されている著者ならではの内容かなと思いました。また、ログの設計についても丁寧に解説されており、参考になります。このあたりは、研究室では手探りでやっていたところがあるので、この情報は非常に有り難いです。

7章

推薦システムの評価では、特にオンライン評価についてページを割かれており、ここもやはり現場ならではの経験が詰め込まれた内容になっています。

付録A

付録としてNetflix Prizeについてまとめられています。本文中にも引用されているようにNetflixについての書籍はありますが、その中から特に推薦システムとの関わりに焦点をあててまとめられています。Netflixにおける推薦システム開発の経緯や最新の取組み事例などが簡潔にまとめられています。

本書は「実践入門」ということで実践向けに焦点があてられていますが、大学での推薦システムの研究・教育においても大いに参考になると思います。早速、研究室での学生指導でも活用させて頂こうかなと思っています。最後に、著者の皆様、改めまして有難うございました。

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