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高校国語授業実践講座⑤生徒を眠らせず力をつける古文の授業

 古文の授業の導入にはいろいろな方法があるのでしょうが、私は「いろは歌」を使うことが多かったように思います。歴史的仮名遣いの説明と、「えう」を「ヨー」と読むとかの説明、五〇音をただ並べただけではなくて、意味があるということを知ってもらって、興味を持ってもらうことが目的でした。
 その後、五〇音図。ヤ行、ワ行も五音あることの説明。文中のハ行は「ワイウエオ」と読む拗音、促音は小さく書かないとか、歴史的仮名遣いの基本を説明しました。あと、文法が現代と違うことを伝え、規則性があるから、覚えるように言っておいて、古文に入ります。
 最初の教材は「児(ちご)のそら寝」『宇治拾遺物語』が多かったかな。指名して読ませるとけっこう読むのですが、たどたどしいことが多いので、範読してから私の読んだ同じ部分を一斉に繰り返し読ませる斉読をさせました。最初の内、一年生の内はみんな珍しがって、けっこう声を出して読んでくれました。上級生になると面倒がって読んでない子もいたようでした。いわゆる寺子屋読みですね。メリットは古文の口調に慣れる、古文を読む美しさを味わう、などがあげられます。場合によってはペア音読トリプル音読をさせます。いずれの場合も、すべての生徒がきちんと読んでいるかを教員が確認することはできません。きちんと読む練習をする意志のある生徒のみが読む技術を向上させます。
 読んだら、現代語と違う言葉、古語を板書し、隣同士で意味を確認し合うように指示します。予習をするように前もって言っておいて、予習をしてくるのが基本ですが、できてない場合はその場で調べることも可とします。分からないときは前後の子にも聞くように言い、概ね確認が終わった頃、様子を見て指名し、それぞれの意味を言わせます。その都度必要事項を補足。そして、それらを覚えるように言います。覚えさせるのに、私が古語を言い、全員に意味を答えさせるということをよくやりました。たとえば、私が、「念ず」の意味は? と聞き、全員で「我慢する」と答えるのです。「念ず」は? 「我慢する」。「念ず」は? 「我慢する」と、三回くらいやると飽きるのでやめますが、こうして覚えさせます。そのとき、覚えきれなくても、こうして覚えた記憶があれば覚え直して、記憶が定着しやすくなります。この手法は初出の知識であれば板書してあったり、生徒が答えたり、こちらが提示したものを繰り返させるのですが、既出の知識であれば生徒の中にその知識があるのだから、ペアで確認させて、みんなに一斉に言わせます。「すなはち」の意味は何でしょう。隣と確認しなさい。分からなければ近所の分かる人に聞きなさい。それではみんなで言います、「すなはち」の意味は頭が「す」「そ」の順にせえの、(生徒)「すぐに、そのまま」、という具合です。言う子が少ないようなら、何度も繰り返して、知識の定着を促します。また、古語の意味だけでなく、文法知識や、古典常識など、様様なものを確認したり、覚えさせたりするときにも行います。
 その次に、古文の現代語訳。ペアで一文交代、あるいは2行交代くらいで現代語訳させ内容を確認させます。それから指名して、パートごとに現代語訳を言わせて必要に応じて訂正しながら、全員で正しい現代語訳を共有します。あとは、現代文と同じで、児の気持ちとか、僧たちが笑った理由とかペアで話し合わせて、指名して答えさせるということをします。
 ほかに、文法が現代と違う部分を指摘し、今後説明して、全部覚えてもらうことを告げます。必要な手順は以上のようなものですが、すべての教材について以上のようにやっていてはなかなか進度がはかどりません。必要に応じてこちらで説明してしまったり、しながらスピードを上げます。最後に、現代語訳を配布することによって、自学自習をしやすくします。このことに抵抗のある教員もいるようですが、生徒の学習のためには配った方がよいと思います。
 古典文法の覚えさせ方については、用言から説明し、付属語(助動詞・助詞)によって接続する活用形が違うため、それを識別するために用言を覚える必要があることを説明します。そして、本文中に出てくる動詞について、活用の種類、活用の仕方を説明し、いくつかやったら、全部を説明して、覚えるように言います。その後、形容詞、形容動詞も同様にやります。一年生の四月に始まって、五月の連休明けくらいには用言の確認テストを実施します。合格は七割。20点満点で、14点です。不合格者は再テスト、再再テスト。その後、不合格者を放課後大教室や教員を分けて、複数の教室に集めて、学習させた後再テスト、再テストを何種類も作っておかなければなりませんが、パターンは同じで言葉が違うだけというものなので、まあなんとかなります。全員合格するまでやり続けます。
 助動詞も同じです。接続、活用の仕方、意味で分類できることを説明し、私はまず接続ごとにすべての助動詞を覚えさせました。未然形接続「る、らる、す、さす、しむ、ず、じ、、む、むず、まし、まほし」という具合です。活用の仕方は、「り」で終わる助動詞はラ変型、し「し」「じ」で終わる助動詞は無変化型特殊型を除いて形容詞型、下二段型に活用するのは「る、らる、す、さす、しむ、つ」、あとは個別に覚えよと指導しました。その後、すべての助動詞について、活用の仕方、意味を覚えさせ、訳し方も覚えるように指示して、確認テストを実施しました。要領は用言の場合と同じです。
 助詞については助詞の種類ごとに何があるか覚えよと指示しました。格助詞は、「が、の、に、を、へ、と、より、から、にて、して、とて、」と覚えよ。という具合で、ほかの助詞もこれに準じます。これは確認テストをしませんでしたが、意識の高い子は覚えていました。少なくとも、識別や訳し方が難しい助詞は覚えよと指導しました。
 こうすることで、ほとんどの生徒が古典文法を身につけました。
 あとは、登場人物全部の把握をまずせよという話をしました。主語が登場したら、印を付けさせ、次の主語が出るまで、基本的に同じ主語の話であるとか、主語がない場合は、敬語の使い方で主語を推理せよとかいうことで、初見の古文でも理解できるように指導しました。リード文、注から得られる情報は役に立つので利用するというのも、重要な読解技術です。知識を蓄えても情報収集と論理的推論ができなければ初見の文章を把握することは難しいのです。
 古文を読む能力を高める指導は以上のとおりです。ただ、これで古文を読む喜びを感じることができるようになるかは不明です。読めるようになれば、喜びを味わえるようになるはずですが、その喜びを感じることができないまま生徒は卒業していきます。生徒の進路希望実現がせめてもの教師の喜びです。

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