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マインドバグ ─リチャード・ガーフィールドの旅路─

これは「ボドゲ紹介 Advent Calendar 2021」の16日目の記事です。ぐらさん、毎年ありがと!

みなさん、はじめまして!!!!!
おしょうと申します!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ふだんはボードゲームネットアイドル活動を行うかたわら、海外ボードゲームの翻訳・編集・校正なんかをやっています。

昨日の記事は、しいたけさんによる「『蒸気の時代』のレアマップについて」でした。『蒸気の時代』は僕も好きで20回以上遊んでいるのですが、知っているマップはひとつもありませんでした!!!

さて、今日は『マインドバグ 』とリチャード・ガーフィールドの旅路について話していきましょ~~~!!

土地の功績と罪

トレーディングカードゲームの元祖『マジック:ザ・ギャザリング(1993)』には土地というメカニズムがあります。

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手札から毎ターン1枚まで土地を出すことができ、土地から生まれるマナをコストとし、クリーチャ(生物)を召喚します。これにより、ゲームが進むにつれてより強力なクリーチャーを召喚できるようになり、エキサイティングなゲーム体験を得られるのです。
しかし土地には問題もあり、「土地事故」で勝負が決するゲームが低くない確率で存在します。つまり土地を引かなすぎたり、逆に引きすぎたりすると、そもそも勝負にならないのです。敗者がつまらないのはもちろんのこと、事故で得た勝利というのも味気ないものでした。

メカニズムレベルで土地事故を減らそうとする働きは、マジックでも積極的に行われています。
現在は開発に関わっていないのですが、マジックの生みの親であるリチャード・ガーフィールドも、そんな土地事故と最前線で戦い続ける1人の戦士です。

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土地というのは偉大な発明であるため、さまざまなゲームで取り入れられています。それはつまり、数えきれないほどの事故を引き起こしているのと同義です。「ならばいっそ、土地などなくしてしまえ」自ら生み出した子が世界中で惨禍を引き起こすのを見て、リチャードは血の涙を流しながらそう決心しました。

土地からの脱却

リチャードがデザインした『アンドロイド:ネットランナー(2012)』には、土地に類するメカニズムがありません。代わりにアクションを実行し、コストとなるリソースをいつでも獲得できます。

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『キーフォージ(2018)』
には、そもそもコストという概念がありません。個々のカード間でバランスを取るのではなく、デッキ全体のパワーを一定の範囲内に収めよう、というアプローチが採られました。このゲームでは人間はデッキを組みません。AIによって、ある程度のバランスを維持しながらランダムに組まれたデッキが箱に封入されています。これにより「デッキ内に存在する数少ない強カードをいかに通すか」という駆け引きが生まれ、土地はなくともゲームに緩急をつけることに成功しました。

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どちらも名作ですので、気になった方はぜひ調べてみてください。

マインドバグとの出会い

さて本日紹介するのは、そんなリチャード・ガーフィールドの最新作『マインドバグ(2021)』です。

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本作は4名のデザイナーによる共作であり、メインデザイナーはリチャードではなくクリスチャン・クダールという新人です。彼らがいかにして出会い、このゲームを完成させるに至ったか、その旅路を紐解いていきましょう。
2020年1月、クリスチャンはゲームデザインに興味のある一介のギークでした。彼はクリーチャー同士が戦い合うコンボ主体のカードゲームに強い関心があり、趣を同じくするポッドキャストNerdlabに惹かれました。そこで、一緒にゲームを作りたい旨をパーソナリティであるマーヴィン・ヘーゲンに伝えたところ、快諾をもらい、『マインドバグ』のプロトタイプが完成することとなります。
マーヴィンはポッドキャストのインタビューでリチャードと対話する機会があり、『マインドバグ』を紹介しました。リチャードはその革新的なメカニズムに興味を抱き、ひとつの、そして大きなアドバイスを伝えました。「このゲームからはマナコストを廃することができる」。
後にスカフ・エリアスが加わり、4人体制でのゲーム制作がスタートします。リチャードはその膨大なる経験に基づき、デッキや手札の枚数、ドローの方法、同名カードが何枚封入されているべきかについてまで検討し、調整を加えました。そして2021年11月、『マインドバグ』は完成を迎え、キックスターターでのクラウドファンディングを行うこととなります。プロジェクトは大成功を収め、10,270人のバッカーと目標額の6,588%の資金を獲得するに至りました。

マインドバグの紹介

『マインドバグ』の革新的な点は、「両プレイヤーは相手が出したクリーチャーのコントロール奪取権を2回ずつ有している」ことにあります。基本的にはクリーチャーを交互に1体ずつ場に出していくことになるのですが、奪取権を使用することで「はいそれ俺のもの~!」とすることができます。これにより、初手で最強のカードを出すと相手に奪取され、致命的なダメージを負います。そのため様子を見て弱めのクリーチャーから出していき、ここぞという場面で自分にのみ有利に働く切り札を出す、というプレイングが自然と導かれます。このコロンブスのたまご的発想により、カード間の強弱は必ずしも均一にしなくてよくなりました。強いカードはどうせ相手に奪われるのです。それはすなわち、コストを基準としなくともカード間に強弱がつけられ、ゲームに緩急が生まれることを意味します。こうしてカードゲームはコストという軛から解放されたのです。

余談 『きょうあくなまもの』というオーパーツ

2015年、日本のボードゲーム制作サークルStudio GG『きょうあくなまもの』という2人用カードゲームをリリースしました(現在は『はらぺこバハムート』の名前でリメイクされています)。

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本作はゲーム開始時、両プレイヤーに相手のカードを無効化できるチップを配ります。これは『マインドバグ』と同じアプローチであり、ともすれば『マインドバグ』は『きょうあくなまもの』から影響を受けた可能性すらあると考えています。日本のインディゲームはアイディアの宝庫であり、世界を魅了する名作がこれからも生まれ続けることを祈っています。

おわりに

というわけで『マインドバグ』とそれにまつわるストーリの紹介でした!
デジタルプラットフォームTabletop SimulatorTabletopiaで遊ぶことができますので、興味を持った方はぜひ触れてみてください。
実物がほしい方は公式ページからレイトプレッジを行うか、一般販売を待つこととなります。
この記事がゲームの魅力と、制作に携わる人々の情熱を少しでも伝えられたのなら幸いです。

明日の記事は、おべべさんによる「国技について」です(国技???)。とても楽しみですね~~~!!

それでは来年も良いゲームライフを!!!!!!!!!!

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