3 止まらない特別視と具体的制度 その問題点 ミーガン法に関して


二大根拠はかくして崩壊させることは可能だ。だが、長年このような事実が目の前にあったとしても顧みるようなことはほとんどない。時代を重ねていくにつれて、性犯罪のための制度はいくつもの作成されるわけであるが、それらには数多くの問題点をはらんでいる。


3-1 ミーガン法・ジェシカ法などといった出所後の政策

性犯罪対策においておそらく一番有名なレベルで認知されているのは、ミーガン法、ジェシカ法といった性犯罪者に対する政策だろう。

そもそも大元となるミーガン法に関しては、1994年7月にニュー・ジャージー州で起きた当時7歳の少女MeganKankaの隣人による強姦殺人事件をきっかけとして制定されたものである(特定事件によって物事が動いたというは後の文章にも取り上げるので、よく心にとどめてほしい)。

犯人は複数の性犯罪逮捕歴があり、このことは当時周囲には知られていなかった。事件後、ミーガン氏の母親が同法を立法することを請願、同州にてミーガン法の制定を実現させた。この運動はさらに発展し、2年後の1996年5月には連邦法ViolentCrimeControlandLawEnforcementActofl994,42U・SC1407(d).の制定まで行きついたものである。

その後にできた法律も同様に特定事件を基に法律を制定しているため、事件被害者の名前がついているようなものも多い。

一連の法制度に関して個別的な面があるものの、代表的な制度内容としては以下のようなものがあげられる。

  • 出所後のGPSによる監視

  • 住んでいる所の公開、告知

といったところが代表的だろう。

期間については州や法律によって異なるものの、一定の期間性犯罪者の情報を登録及び、GPSの装着というようなことをする。

しかし、知っての通り再犯率についてはそもそも高いという確認は取れないものであり、それ以外にも制度そのものにも大きな問題をはらんでいる。

ここからはミーガン法のまとめなどを参照に話を進めさせてもらいたい。

(1)社会復帰を困難にする

ミーガン法といったような制度はあまりに多くの問題点を持っている。

ミーガン法を適用された人たちに対するアンケートだが、その一つとして米連邦司法省の部門のひとつである National Institute of Justice が2000年12月にまとめた報告書がある。

この調査ではミーガン法が適用されている元受刑者に情報を取ったところ、ほぼ全員がなんからの嫌がらせなどを受けているものであり、社会復帰を阻害されているというのである。具体的な調査結果に関しては以下のとおりだ。

  83% 住居から追い出されたり、入居を拒否されたりした
  77% 脅迫や嫌がらせを受けた
  67% 家族が心理的に傷つけられた
  67% コミュニティや知人から仲間はずれにされた
  57% 職を失った
  50% 保護観察員からの圧迫が強まった
   3% 暴行を受けた

Zevitz RG, Farkas MA (2000). "Sex offender community norification: assessing the impact in Wisconsin." National Institute of Justice Research in Brief. December 2000. Available online. 日本語訳はミーガン法のまとめ:ミーガン法の現在 (macska.org)より


本来、元受刑者というのはできれば隠しておきたいことでもあり、プライバシー権としての一面もあれば、知られないことによってこそ社会復帰もなせるようになるというものである。

しかし、そういったことが表に出るようになってしまっては、周囲の人間からの社会的な圧力が出るのは当然出てくるだろう。

性犯罪者には限らないだろうが、犯罪者が自分の周囲にいるというのは心のどこかで遠慮したいと思うのはわかる。自分に対して何かしてくるのではないか?また何かするのではないだろうか?そう思うのも無理はない。

だからといって、コミュニティから排除する流れとなると、社会復帰を行うことは相当困難となるだろう。

住む場所どころか職も手に入れられなければ、生活すらもままならない。その後はまた犯罪をするコースか、のちに紹介するがまた別の収容所のような町に住むことになるだろう。

犯罪を誘発しているのか、それとも防ぎたいのか。いったい何がしたいのか?というようなことを相手に求めるのである。

(2)司法の否定と私刑の肯定を促進する

イ.情報がわかれば当たり前のように・・・

先ほどの調査内容を見ていると、住所から追い出すことや、暴行、職を失うといったことがあげられているのだが、これから司法が刑罰権を独占していることを否定し、私人による私的制裁を促進していると考えられる。

私的制裁自体もまた別の犯罪を誘発するという点において、治安を悪化させることにもなるため、治安の維持を目的としていた話とは本末転倒な状態ではないか。

現に先ほどの調査で挙げられているような私的制裁と思える暴力事例もあがっていれば、刑事罰とまではいかないものの、性犯罪者であることを理由に他人をさまざまなところから追い出そうとするのも私的制裁ではないか。

司法が否定したものを再び復活させるということは、法治主義の根幹を揺るがすのではないだろうか?

ロ.他人が巻き込まれるケースも

また、元受刑者だけが巻き込まれるわけではなく、実際には関係のない赤の他人が巻き込まれるようなケースもある。

いくら記録が管理されているといっても、すぐに反映されるとは限らない。今は住んでいない状態でも、記録が更新されてなかったことや不正な記録を登録していた、隣人の住所と間違われたなど、全く無関係の人が巻き込まれるようなこともあるという。

暴行などもあるが、巻き込まれて住宅を放火されて無関係の人がいなくなったというようなケースもあり、混乱を招くようなことまでしているのだ。

たまにネットでも無関係の人が犯人のように扱われて、不当な仕打ちを受けることもあるが、それと同じことがこれらの法律でも起こっている。


(3)憲法にも反するケースではないか?

また、ミーガン法というのは憲法的にも非常に大きな問題をはらんでいるとも指摘がある。

先に挙げたプライバシー権という点もあるが、その他にも重大な憲法上の問題点をはらんでいる。

あげられるものとしては二重処罰の禁止、事後法の禁止、居住・転居の自由への侵害といったところであろう。

結論から言えば、2003年3月に連邦最高裁判所でいずれも合憲の判断をだしてこれらの問題をすべてクリアしているという恐るべき結論を出している。

必要な分だけ判決には触れるが、判決を見てもなお合憲であるとは考えにくい。

※米国での裁判の話ではあるが、便宜上下記文章では日本の条文に合わせて話を展開する

イ.事後法の禁止に関して

また、同様の法律制定において、明らかに法制定前に行われたものに関しても、法を適用するということが争われたケースがある。この点についても事後法の禁止という明確な憲法違反ではないかと考えられる。

日本の憲法において、憲法第39条には「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。」

と記載されているものだが、ここが争われたものとして「スミスVSドー事件」というものがあったのだが、これも最高裁判所で決着がついた。ここにいるまでの下級審の判断は事後的ようだと認めてきたのではあるものの、これらすべてをここでひっくり返した。

この面に関しても、ミーガン法のようなものは刑事罰ではないという結論を出しており、あくまで刑事罰と言われるような処罰的なものではないとして、事後法の禁止に接触しない。

としたうえで、より多くのことを理由に挙げているが、まとめると

  • この法制度がなくても有罪を受けた情報はニュースなどで公開されており、前科などを調べることはできるため、同法があってもなくても変わらない。

  • 居住や住居に許可を求めているわけでもないなど、法律の内容自体ははく奪するものは軽微である。

  • 性犯罪者に対する情報入手をして危害を加えるといった行為については刑事罰に問われるという警告文がある。

という判断を下している。

しかし、ここには大きな疑問が複数ある。

確かに現代のネット社会であれば、過去に犯罪を起こした人間の情報などを調べることができるだろう。しかしだ、普通の犯罪者は出所後に住んでいる住所などを公表されることはない。

調べたくてもそもそも調べられないのではあるが、性犯罪者はどこに住んでいるのかを容易に調べられるという違いがある。それだけでも、他の犯罪者に比べて監視の目もでるわけであり、なおかつ周囲から迫害される危険性を高めている。

現に襲撃されるケースも取り上げさせてもらったわけだが、そういった現実や違いを無視しているのではないか。

他の犯罪者についても前科情報が調べられるからと言っても、みだりに今住んでいるところを公表するなどすれば、プライバシー権の侵害ということも考えられるだろう。

しかし、ミーガン法は元々公表されているものであり、他人に教えたからと言ってプラバシーの侵害というにはかなり厳しい。これだけでも保護の範囲が明らかに狭い。

情報公開が広範に適用されるのが問題なら、閲覧出来るものを制限することも考えらえる。が、そこから情報を漏らして危険にさらすことも簡単にできるだろう。複数人見て、どの経緯で情報が漏れたかをわからなくすることは、情報経路を複雑にすればするほどばれにくい。

また、後にも述べるが実際問題住む場所が制限されて、迫害及び監獄かのような形で済む場所が制限されているケースもある。

性犯罪を特別に扱っているからこそ、より住民の目も厳しくなるだろうし、監視の目や迫害、コミュニティからの実質的な追い出しを加えてしまえば、実態として「軽微なはく奪」というのはかなり厳しいだろう。

事後法の禁止というにはあまりに広範な制限になっていることも多い。そして、再犯率の高さという根拠も根底から崩れている以上、性犯罪のみが扱われること自体も難しいのだ。

ロ.二重処罰の禁止に関して

刑期を終えた犯罪者についてはその罪を償ったということであり、憲法第39条において「同じ罪で又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。」という条文が根拠となるだろう。

しかし、先ほどの事後のほう部分を見るに、そもそも刑事罰ではないという離れ業により、二重処罰に関しても訴えを棄却している。

もちろん事後法の禁止と同様の話が展開されるものであり、この点についても二重処罰でないとするのは厳しい。

ちなみに日本で導入するなら行政罰という形にして、二重処罰禁止を掲げるだろう(最高裁大法廷 昭和 33 年 4 月 30 日判決など参照)。

ハドソン事件(米連邦最高裁 1997 年 12 月 10 日判決)のような判決もアメリカではあるのだが、既に検討した通り事実上の刑事罰に等しい状態を考えれば、別の手続きとして処理することは本来困難であろう。

また、行政罰というのは二重処罰を回避するために罰則金というような形をとるようなこともあれば、秩序罰と呼ばれるものもあるが、身体拘束まで及ぶと行政「刑罰」と呼ばれる分類となる。

あくまで手続きの違いとともに、罰則の違いも念頭に置いているのではあるが、行政罰と称して拘束性や監視性の強いものを与えられるとなると、双方の違いは何か?ということを改めて問わなければならなくなるだろう。


ハ.居住、移転の自由の制限

住所がばれてしまっていることによって、コミュニティから追い出される話などはさせてもらっているが、こういった話をしていった先に待ち受けているのは居住・移転の自由(憲法第22条)を侵害しているのではないかと考えられる。

どこかに住みたいと思っていても、前科に関して隠すこともできないことから入居を拒否。ということを繰り返していけばそもそも住む場所がない。

住むところがないのなら、今後の生活をするための拠点を探すことができない。

ホームレスになるようなこともあるのだろうが、そんな生活も続けることは難しいだろう。ホームレスになったからと言って、GPSは相変わらずついているし、場合によっては外出禁止に反することだからと刑事罰をもらうかもしれない。

では、どのように生活を確保していくことになるのだろうか?そのことをよく示す資料として、アメリカでは隔離された土地で暮らしているという話が出てくる。

村の所在はフロリダ州でもかなりへんぴなところにあり、周囲を広大なサトウキビ畑で囲われている道を抜けた先にある小さな集落である。

ここの住人の多くは性犯罪者で構成されているのであるが、住んでいる地域を追い出されることや、就業できなくて生活できない状態を余儀なくされた人、特定の施設に接近することを許されない故に住んでいるところが住めなくなった人たちが中心だ。

性犯罪者の方が集まって性犯罪者でコミュニティを形成している所であり、ここにいれば自警団と称した人々からの暴力から逃れることができるため、安息の地ではあるだろう。

しかし、その人たちはいわば隔離された場所で生活を余儀なくされた状態なのではあるが、これは刑務所や収容所で暮らすのと何が違うというのだろうか?という疑問が出てくる。

本来、人はどこに住んだり移転したりするのは自由に行われるものなのだが、そういったことを情報公開することで実質的に制限さ入れているのではないか?

一定の場所に近づけないというだけではなく、周囲の圧力を用意にかけやすい状況によって追い出されるように持っていく状況が作りやすい。もちろん仕事に関しても制限がかかりやすいのであり(実際に就職の際に制限を掛けられる話が記事には出てくる)、複数の側面から圧力をかければかけるほど、住める場所というのに制限がかかる。

もちろん、GPSの監視もあれば外出時間の制限などもついている。破れば警察も駆けつけるようになっており、罰則を取られるようなこともあるだろう。

さて、これだけ住む場所の移動にも制限が加えられているものは、居住・移転の自由はあるといえるだろうか?

また、これらの実態として刑務に服しているのと同じような状況にしているとは考えられないだろうか?事実上二重処罰の禁止に触れるのではないかという疑問は頭から離れない。

(4)効果に関してもまちまちである。

GPSなどの利用もミーガン法では利用されてはいるものの、効果についてもそのまま首肯することはできない。

調査によってはGPSについては効果を疑問視する声もある。ミーガン法に関しても同様である。Schram D, Milloy C (1995). Community notification: a study of offender characteristics and recidivism. Olympia, WA: Washington State Institute for Public Policy. や Matson S, Lieb R (1997). Megan's law: a review of state and federal legislation. Olympia, WA: Washington State Institute for Public Policy

といった調査があるのだが、ここもミーガン法のまとめから引用すると

この調査では一般告知開始後に釈放された(つまり、情報が告知されている)元受刑者のグループと、一般告知が開始される前に釈放された元受刑者のグループ(両者とも前科の重さは同程度になるように調整されている)を比べ、それぞれ出所後54ヶ月のうちに再犯する確率を比べた。結果は、両者のあいだに統計学的に有意な差は認められなかった。すなわち、ミーガン法によって性犯罪者の再犯率が減るという効果は一切認められなかった。・・・面白いことに、再犯率に違いは見られなかったにも関わらず、両グループには1つだけ統計学的に有意な違いがあったと報告されている。その違いとは、再犯に至るまでの潜伏サイクルの期間で、一般告知開始後の方が「より早いうちに」再犯していることが分かった。

日本語訳はミーガン法のまとめ @ macska dot org より

となっている。

当然と言えば当然なのだろうが、他人に監視されるというのは心理的な圧迫を受けるものであろう。住所もさらされていることもより強くなる。そのストレスを感じるようなことが強ければ、より犯罪に向かわせてしまうというようなことも考えられる。

むろん、GPSを取り付けたとしても再犯する者は再犯するのであり、取り付けたところで何ら意味のないことなのだろう。また、調査結果にはより早く再犯をしてしまう傾向まであり、余計に問題を早く起こしているといえる。

その他の調査も当たってみたのではあるが、より多くの実証結果を検討したものもある。

GPS型電子監視は2000年代中ごろからアメリカの各州のみならず、諸外国で実施されることとなった。しかし、本研究は、実証的な分析により、性犯罪者の再犯防止効果はないことを示すものであり、性犯罪者対策として導入することに反対するものである。

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K03435/

研究内容はかなり深く、欧州の議論や北米などのデータを基に再犯防止効果を否定している。かなり広範に調査した結果のことだから、エビデンスとしてはかなり硬い成果を保証できるだろう。

本研究ではストーカ事案などには多少の有意性を見出しているがかなり限定的な場面でしか効果がないとしており、わずかな利得を考えても効果がない面や不利益を与えている面が強くこの研究は基本的にGPS導入に反対している。

これとは逆に韓国の事例のような成果を強調する意見もあるが、ここから直ちにGPSの効果について首肯することは難しい。

「性犯罪の再犯率が制度導入前(04年~08年)は14.1%だったが、制度導入後は1.86%にまで減少した」と発表。「再犯抑制能力を立証した」と自信をのぞかせるのだ。

https://www.fnn.jp/articles/-/5503


もちろん、GPS利用についても憲法問題(プライバシー権など)がついて回るのではあるが、そのあたりも無理やりクリアしようとしてくる動きもある。そのために、不利な研究についてはほとんど触れられるようなケースはなく、逆に有利なケースを強調するというチェリーピッキングを行っているケースも少なくない。

私見としても効果があるとするのならせいぜい犯罪をした時に、少し早めに犯罪者を逮捕できるかもしれないという期待があるくらいだろうと考える。もちろん費用が掛かる面も強い政策であるので、安易に効果が怪しい政策に多額のお金を出すべきではないと言える。

(5)ほぼ百害あって一利もないような代物である。

ミーガン法といった代物に関しては、あまりに問題点が大きい政策であり、導入を拒絶するべき政策というものであろう。憲法上の問題や司法上の問題など。現代秩序に重大な挑戦状をたたきつけている制度である。

項目ごとに分けたものだけではなく、その他にも否認事件が増えるケースや、被害者のプライバシーも明かされる問題、安全性があると思っていると油断するケース、犯罪内容を問わず制度適用をしている不均衡など。あまりに多くの問題を出しすぎている。

改めて調べてみたがやはり百害あって一利なしとほぼほぼ言えてしまうものであり、政策として取り上げるべきレベルですらない。

にもかかわらず性犯罪の話題が出ると負の面をほぼ全部隠しながらよく語られるのではあるのだが、他の犯罪では同様のことは話が出てこないこともまたおかしな話ではないだろうか。

参考文献

性犯罪者から子どもを守る メーガン法の可能性 松井茂 著 中公新書

メーガン法のまとめ ミーガン法のまとめ @ macska dot org


残りは性犯罪がらみの著書の紹介


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?