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【1ヶ月書く日記】しのルーレット【16日目】

 心臓の鼓動が早い。

 かと思えばバスドラムを叩いたような跳ね上がり方をする。体の奥から重低音が響いて来るような感じ。


 昨日の静電気――というか放電体質は今日になって大人しくなった。でも今度は脈の乱れが起こり始めた。関係あるのだろうか。まあそんなことはないはずだ。おそらく。今夜は大人しく寝よう。





 本当に関係のない話をしてみる。






 もし、電撃を放つとか身体から火を出せるとか、空を自由に飛べるようになったりとか。現実世界でそういった特殊な能力を身に着けたらどうなるだろうか。

 自分は、能力者になったとしても日常はそこまで変わらないと思う。いや、日常をなるべく変えないように努めるだろう。

 人並み外れた力が無制限に使えるわけでもなく、何かしらの代償があってもおかしくない。自分たち人間が生身の身体で、強大な力を反動無しに使えるのだろうか。ちょっと気圧が乱れるだけで体調が悪くなる我々に。

 稚拙な例えをするなら、食欲を大いに満たす味の濃い料理は総じてカロリーが高いし生活習慣病の引き金になる。寿命を削るとか、五臓六腑に異常をきたすとか、もしかすると他を凌駕する万能感と引き換えになるものは、あまりにも大きいかもしれない。


 自分は何となくだが、因果という存在を信じている。


 徳を積めば積むほど良いことが起きるなんてことはないと思うが、周りから良い人と言われる人物を見ていると、何となく「ツキ」の雰囲気を感じることはある。

 悪行をする人は、さらに悪い人と友達だったりする。あぶく銭で買った物はすぐ壊れるか無くしてしまう。よこしまな気持ちで回したルーレットは大体はずれる。借りて返さなかった本の中身なんて覚えられないだろうし、逆に知識を得ることに対して興味を失ってしまう。そんな盗人の話を聞くことは少なくない。

 言いたいのは、どこまでも都合が良すぎる存在、フィクションの産物のような偶然なんて、この現実には限りなく少ない。それでも起きる時はあるが、見て見ぬふりをして缶ビールのプルタブを開ける方が比較的幸せな生活を送れるだろう。

 たとえ人智を越えた力を手にしたとしても、ろくなことは起きない。そういう因果に巻き込まれるだけだから、無視して俺は平凡な酒を飲み続ける。そういうわけだ。

 とはいえ。自分という、世界規模で見ればあまりにも小さすぎる一人という存在が、実際に使役できる力と影響。いかほどの物なんだろうか。


 試せるなら試したい。でも願わくば、大したものでないことを祈る。


 寝支度を整え、布団代わりの毛布にくるまると、真っ暗な部屋の中で一瞬だけ小さな電光が走って行った。