2023年の同人誌づくりの話

2022年に同人活動を再開してからというもの、楽しくて楽しくて今年も元気に同人活動をしていました。

今年もいろんな同人作家の装丁ノウハウに助けられたので、わたしも前回と同じように、装丁や作業の記録を記事にまとめようと思います。
2024年1月発行の本も混じってるけど、あんまり寝かせると装丁意図を忘れちゃうので2023年分に含めちゃいました。


5月に出した本(表紙3色刷り)

  • 印刷所:サンライズパブリケーション

  • 表紙用紙:新星物語 パウダー 180kg

  • 本文用紙:モンテシオン69㎏

  • 仕様:B5 / 52P / 表紙3色刷り(紫 / ターコイズ / 蛍光オレンジ)

以前から多色刷りオシャレ表紙に憧れがあり、ちょうど描こうとしていた本が三角関係的な内容だったので「キャラのテーマカラーで3色刷りしよう!」と。

いろいろな印刷所の多色刷りセットを比較して、サンライズは2色まで基本料金内、かつ3色目の追加料金が明確だったので選んだ記憶。それとTwitterで多色刷り表紙の作例を検索したところ、サンライズを使ってる方が結構多かったんですよね。
極めつけにサンプル資料に、初心者向けの多色刷りガイドが!
これは多色刷りビギナーにありがたい!仕上がりイメージなどの画像が豊富ですごく良い資料でした。しかも無料で取り寄せできます。
データの作り方も丁寧に解説してくれるので、多色刷り初心者でも問題なく原稿作成できました。

多色刷りに関しては他にも、デザイナーの井上のきあさんがたまにノウハウ冊子をネップリしてくださってますね。私はプリントしそびれてしまったんですが……同人誌で多色刷りしてみたい人にも良さそう。混色見本とかありがたいですよね。
余談ですが井上のきあさんの著書「入稿データのつくりかた」は、私のようなDTP弱いマンの入門書としてすごく良書でした。リッチブラックというものがあるとか、インク濃度の総量上限があるとか、素人には知らないことばっかで……

三色の刷り色と刷り順は 紫 → ターコイズ → 蛍光オレンジ
版分けデータはこんな感じでした。

紫(左)、ターコイズ(中央)、蛍光オレンジ(右)
3色の重なり具合。ターコイズと蛍光オレンジは色の混ざりがいい感じですね。
濃色は色の混色感が出ないので、淡い色で重ねる方がおもしろい効果になるのかもしれません。
実験的にグラデの混色っぽいことしてみたり

表紙用紙は新星物語です。

新星物語 パウダー 180kg

混ぜ物が入った紙ってちょっと和紙っぽく見えてしまい、表紙デザインとあまり合ってなかったかも、と刷り上がりを見て思いました。
が、改めて見返すと単色で刷ってある部分にラメがキラッと光り、これはこれでいい塩梅のような。

モンテシオン69㎏

本文用紙はモンテシオンを使ったんですが、これがドンピシャ好みでした。シリアスで哀愁のある雰囲気にしたかったので、白色度が高くハッキリした紙よりラフでくすんだ紙がいいなと。結果、ラフだけどザラザラすぎず、適度な上品さもありバッチリイメージ通り。

この本の話はすごく思い入れがあり、装丁も絶対話のテーマに合わせるんだ〜〜いと意気込んで作ったので気に入っています。
でもPPも貼らなかったし、劣化が早いと言うモンテシオンだし、耐久性が高い本ではないかも。劣化も哀愁ということにすればいいか……

6月に出した本(メタル紙+白押え+マットPP)

  • 印刷所:栄光

  • 表紙用紙:ミラックスV 220kg

  • 本文用紙:栄光コミック

  • 遊び紙:上質紙 黒

  • 仕様:B5 / 36P / 栄光のMETALサンバセット

これは2022年末に出した本の続き物なので、仕様は同じくメタル紙+白押え+マットPPです。(遊び紙変えたくらい)
白押え版のデータや効果については過去記事の方を参照ください。

メタル紙に印刷するとかなり色が沈むことが前回の刷り上がりを見てわかったので、今回は明度と彩度を高めに調整しました。

写真にとるとあんまり変わらないですね……データ上は結構調整したんですが……
白抑えをしてないところだけメタル紙の光沢が残ります。
でもマットPPなので鏡面反射ではない仕上がり。
データ作成ミスなのか、0.5mmほど白押え版がズレてしまった。

本文はキャラの褐色肌(とその他一部分)だけグレースケール、それ以外は二値トーンです。褐色肌の滑らかさを追求したいためでしたが、モアレないためのレイヤー管理が大変だった……あと刷り上がりを見て思ったのは、グレスケだと雑な塗りをすると粗が目立ちますね……結局次の本から基本トーン75線に戻してそれに落ち着いています。

12月に出した本(メタル紙+白押え+マットPP)

  • 印刷所:栄光

  • 表紙用紙:ミラックスV 220kg

  • 本文用紙:貴好紙 90kg スイート

  • 遊び紙:上質紙 黒

  • 仕様:B5 / 50P / 栄光のMETALサンバセット

こちらも続き物3冊目なので、6月とほぼ同様の装丁。

しっぽの質感だけちょっとこだわりました。偏光っぽい感じにならないかなーと思って塗ってみたところ、メタル紙+マットPPの控えめなラメ感が乗っていい感じに偏光コスメみたいになった気がします。

貴好紙 90kg スイート

今回は本文を黄色みのある貴好紙 90kg スイートに。
前作、前々作は本文を栄光コミックにしていたのですが、白色度が高くパッキリしすぎな気がしてきたため……紙の明度を下げたいかんじでした。モンテシオンがすごく好みだったのもあり…
やっぱ白くて平滑な紙だと作画の粗が目立つ気がします。

この本から主線のペンを、
神絵師Gペン四角のカスタム+かしペン

HIMOGザラ強弱ペンのカスタムのみ
に変えたのですが、線の抑揚がつけやすくメインの線も細いハッチングもひとつのペンで済むので作業が楽になりました。

イラスト作画と装丁提案した御本(ホログラム透明箔+浮き出しプレス+マットPP)

  • 印刷所:ブロス

  • 仕様:B6 / マットPP+ホログラム透明箔(ジャングル透明)+浮き出しプレス

これは自分の本ではなく、B6小説本の表紙イラストと装丁提案をお手伝いしたやつです。特殊装丁なにかやりたい!というオーダー。楽しい!

マットPPにジャングル透明箔+浮き出しプレス

アイドルパロかつ星がモチーフだったので、華やかでキラキラした方向性でと相談してホログラム透明箔を使うことにしました。さらに透明な箔を目立たせたい意図で、箔と同じ版で浮き出しプレスを併用。
ホログラムのキラキラが目立つようにマットPPにしてもらったんですが、箔との質感の違いが出ていい感じでした。

普通の印刷部分(左)と箔+浮き出しプレスの版(右)

印刷と箔の版はこんな感じでした。
ホロ箔の下にうっすら紫を敷いています。ホロ箔が目立つかなと思っていれたのですが、あまり効果的でなかったかも?
浮き出しプレスは箔と通常印刷の境界にキラッとしたハイライトと影が入るので効果的だったなと思いました。
ブロスのWebによると箔の版の線は5mm以上ないと潰れてしまうとのことでしたが、今回は部分的に5mm以下の箇所もあります。(入稿前にブロスにpsdをチェックしていただきました)
星の先端の細い部分もキチンと箔がのっています。

ロゴは疑似凹エンボスっぽく見えるといいなーと、内側シャドウ+ハイライトをつけてみた
表4イラストを流用してノベルティをつくった

あとはあまり指定がなかった裏表紙をめちゃめちゃ楽しく自由にやらせてもらい……
アイドルパロと聞いた時点で、頼まれてもいないのに勝手にノベルティを作りたい!!と思い、ノベルティに使いやすいようなイラストを描いたりロゴを作ったりしていました。結果素敵なカードにしていただいてその節は大変ありがとうございました……
やりたいこと全部やらせていただいたので夢のように楽しかったです。
表紙デザインもイラストもどっちも一人でやるケースの良いところって、「後々こういう使い方したいからこういうイラストにしとこ」「使いまわしやすいロゴ作っちゃお」みたいなのがやりやすいところかなと思います。

しかしR-18マークの背景にいれた意匠がズレたままデータをお渡ししてしまう痛恨のミス!!
自分の本だとまあいいやと思えるのですが、人様の御本となると反省しきりです。自分があまり印刷・装丁に詳しくなく、特殊装丁の仕上がりの予想がつかないこともあり、人の本のデザインは責任重大だなと思った次第です。いや、当たり前の話ですね……

あと背幅が厚~~~~~い!!
こんだけ厚けりゃ小口とか背表紙でなにかやりたくなりますね

1月に出した本(表紙2色刷り)

  • 印刷所:大陽出版

  • 表紙用紙:ビオトープGA-FS (ストーングレー)170kg

  • 本文用紙:アドニスラフ

  • 仕様:B5 / 20P / 表紙2色刷り(DIC-449 / DIC-569)

短期間でつくる軽いノリの本だから、フルカラー塗らなくて済む2色刷りにしよう!と思ったものの、色刷り表紙ってフルカラーより締切早いこと多いですよね……値段もあんまフルカラーPPと変わらんし……

ビオトープGA-FS (ストーングレー)170kg
紺色の上に黄色い蛍光ペンで描いたような仕上がり。

この本は本文にアドニスラフが使ってみたいという1点で大陽出版のぴたごらすセットR(表紙色刷りセット)にしたんですが、表紙用紙の選択肢が多くていい!
表紙は主張しすぎないけどニュアンスのある紙がいいなーとビオトープを選択。結構グレーな紙でしたが、適度にザラついた質感があってオシャレな紙でした。おしゃれプロダクトのパッケージに使われてそう。

各色の版。一色目は紺色(左)、2色目は黄色(右)

刷り順について、紺色(DIC-449)を一色目、黄色(DIC-569)を二色目でお願いしたところ大陽さんから
「濃色を二色目に指定する人が多いけど、この刷り順で問題ないのか?意図と違う仕上がりになるとよくないから…」という旨の電話が。
原稿不備以外で印刷所から連絡が来たことがなかったのでちょっとびっくりしました。(自分の本のタイトルを電話で言われるのドキッとする!!)
Twitterで「大陽さんは対応が丁寧」と見たことあったんですが、こういう細かい確認をしてくれるからですかね。次も使いたいなと思いました。

アドニスラフ
左上余白部分に若干裏ページの印刷が透ける

本文は使ってみたかったアドニスラフ。セットでアドニスラフが選べる印刷所あまりなくないですか?気のせい?
5月のモンテシオンもザラっとして好きでしたが、それよりさらに質感がある感じ。裏ページの印刷が透けるというので心配してたんですが、たしかに透けるものの私の場合余白が少ない画面なのと、ザラっと質感のためかあまり気になりませんでした。なんなら12月に使った貴好紙90kgの方が透けが気になる。平滑な紙だからkな?

上:アドニスラフ 下:モンテシオン

アドニスラフの方がザラつきが多めかつ、白色度が低い感じ。
モンテシオンはもう少し平滑で上品に見えます。
ざらざら本文用紙ジプシー中なので、2024年はまた別のラフ系の紙を試してみたいです。

家のインクジェットプリンタで2色刷りを試し刷りしてみた

あと大陽さんが「オフセット印刷と完全に一緒にはならないけど、家のインクジェットで試し刷りしてみてもいいかも」と。はじめて家プリンタで2色刷りしてみました。(一色目をプリントした紙を給紙口に戻して二色目を印刷する)
これが結構味があっていい感じに。家プリンタなので当たり前に超版ずれが起きるし、線も全く精細じゃないんですけど、それもニュアンスになってカワイイ!
数十部くらいまでなら家プリントで多色刷りペーパー作っても楽しいかもしれません。

AdobeFontsの良かったフォント

PhotoshopとLightroomだけ使えるAdobeのサブスクプランを契約してるので、それに付属するAdobeFontsから選んで使っています。
せっかくAdobeFontsが使えるからいろんなフォントを使おう!と思い、今年は割といろんなフォントを漫画内で使ってみました。
その中で読みやすくって雰囲気もあっていいフォントだな~と思ったものを書きます。

貂明朝アンチック

通常台詞にクリスタについてくるイワタアンチック体Bをずっと使ってましたが、Adobeオリジナルのアンチック書体が追加されたと聞いて12月の本から貂明朝アンチックに変えてみました。

貂明朝の方がふところが広くて読みやすい気がする。
♡などの記号も収録。

イワタアンチックよりふところが広くて小さいサイズでも読みやすそうだし、なんか心なしか貂明朝アンチックの方がこなれた感じに見えませんか……気のせいですか……。あと貂明朝アンチックは漫画でよく使う記号の類が沢山収録されてるとのこと。太さも6種類あります。
標準的な太さのRegularだけはAdobeFontsの無償プランでも使えるらしいです。Adobeアカウント作ってCreativeCloudを入れるといい模様。iPadでもいけるみたいですね。

DNP秀英横太明朝とDNP秀英にじみ明朝

5月のシリアスなノリの本で、台詞も特徴的なフォントにしたいなと思い使いました。
通常台詞はDNP秀英横太明朝。アンチック書体だと通常のトーンでしゃべってるような印象があるけど、横太明朝だと若干静謐なトーンでしゃべってるように見えませんか……気のせいですか……?
特ににじみ明朝の方は、上品なんだけど情念のにじみ出たような印象ですごく好きな書体です。暗めの回想シーンのセリフで使いました。

UD角ゴラージ

商業漫画見てるとモノローグ台詞が角ゴシック体なことが多いな~と思い
12月の本あたりから使いました。通常台詞とモノローグ台詞の書体が変わってるとなんか商業誌っぽく見える……気がする!

以上4つ使ってみていい書体だな~と思ったものでした。
声がでかいときに使う極太ゴシックや、ちょけてるような台詞に使う丸ゴシックはまだこれだ!!というものに出会えてないので、おすすめがあったら教えてください……

AdobeFonts、Adobeのサブスクプラン内の最安のものがIncopyの一括払い年間6,336円なので、年間6,000円ちょい払えば20,000書体が使い放題です(AdobeFontsの単体プランはない)
趣味の経費だと思うと安くはないんですけど、フリーフォント以外のもの使ってみたいな~という人はIncopyの1か月契約(1,000円弱)とかでお試ししてもいいかも。でもPhotoshop or Illustratorの単体プランか、Firefly(生成AI)のプランの方が同人誌づくりには役立つかもしれない。
一応1,500書体しか使えない無償プランもあります。

今年の抱負

ある程度の冊数を出してみて、印刷所にも毛色というか雰囲気があるんだなと思った2023年。(印刷品質の違いはいまだに全然わかんないですが……)
まだ推し印刷所というものがないので、今年は使ったことない印刷所をいろいろ使ってみたい所存。
今年もよろしくお願いいたします。