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さよならだけの人生

「さよなら」の由来が「左様ならば(仕方ない)」だよって話を聞いた時、昔の別れっていうのは死だけじゃなくてただ会う予定が今後無いだけでそれが今生の別れになりえることが多かったんじゃないかなと思いを馳せていました。

現代はスマホもあるし生きていればまた会えるでしょとは思いますが、それでも連絡先聞いてなかったり連絡先が消えてたりすれば会える可能性がぐっと低まります。共通の知り合いがいればまだなんとかなるかもしれませんが、そこまでしたいかどうかはまた別問題だったり。

僕がたったこれだけ生きてるだけで、あの当時は仲良くしていたのにもう会うこともないだろうって人がたくさんいます。だからといって悲しいわけでもないし、会っても昔と同じように仲良く出来るとは限らないので自分から会いたいと思うことは稀ですが、その稀なケースを一人思い浮かべたのでそのことを書いていきます。

中学生15歳の夏。高校受験のために親に塾に行かされることになりました。案の定というか、びっちりと詰め込まれた授業カリキュラムに嫌気が差して逃げ出しました。塾の近くにあるゲーセンに寄って連ザ2(ガンダムの対戦ゲーム。今稼働しているエクバの祖先)をプレイしていると、対戦相手が乱入してきました。

そもそもちょっと昔のゲーセンの対戦ゲームの仕様がわからないと話が進まない気がするので簡単に説明すると、向かい合ったゲームの筐体に座ってCPU戦を一人でプレイしている状態でその向かいの筐体に他の誰かが100円を入れると乱入することが出来るんです。CPU戦は中断し、その相手と対戦が始まります。当然、負けるとそこでゲーム終了しまたプレイするには100円が必要になります。弱いプレイヤーはただ100円が吸われていくという殺伐とした世界でした。今は乱入出来ない一人用にも変更可能だったり、そもそもネット対戦も出来たりとだいぶ変わりましたね。

本筋に戻ります。乱入され、僕のストフリが相手のストライクノワールに負けてしまいました。対戦ゲームは機体(キャラ)性能の調整に失敗すると環境がぶっ壊れる難しさがありますが、連ザもそうでした。全体的にはバランスは取れていた良いゲームではあるのですが、ストライクノワールは通称マワールと呼ばれる凶悪な性能をしており、僕の仲間うちでは使用禁止機体になっていました(にしては埼玉とか他の厨機体使ってるやつ居たけど……)この仲間内で使用禁止ルールってその厨機体との対戦経験も積めないので更にその禁止厨機体に負けやすくなるんですよね。それで知らない人だからいい機会だと思い、自分もほとんど初めてストライクノワールを使ったのでした。なかなかいい勝負になり、勝ったり負けたりしたあと自販機でジュースを買ってるとその相手が話しかけてきました。
ひょろっとした体型で、暗めの茶髪に染めてて眠そうでチャラい感じのそれでいてオラついてる感じはしない高校生でした。「金持ってんね」って言われたので、セリフだけではカツアゲか?って感じですがただ2時間くらいずっと100円入れて遊んでた上にジュースも買ってたから中坊にしてはって感じで言ってきたようでした。彼はタバコを吸いながら、僕は連ザのあとは目を休めるためにマジアカをプレイしながら雑談してその日は終わった気がします。

そのゲーセンに行けば彼はよくいるので何度か話していると、市内では頭の良い方の私立の高校に入学したものの入学出来たという達成感から燃え尽き症候群にかかり落ちこぼれてしまった系の学生でした。
マジアカで僕のわからない問題を答えてくれたり、連ザは本来2人vs2人のチーム戦のゲームなので彼と二人でCPU戦をやって、乱入があれば戦って先落ちしたら怒られたりカラオケでお互い知らない曲を交互に歌うだけ歌ったりして過ごしました。

位置関係の話をすると、彼と会えるゲーセン・塾・俺の家・学校の直線で結べるような位置で、俺の家と学校の間にはもう一つゲーセンがあって普段学校の友だちと遊ぶホームはそっちでした。だから塾がなくなればそっちの遠いゲーセンにわざわざ通う理由は無い。ゲームの種類も少なかったしクレサも弱かったしクレーンゲームのアームもクソだったし。

ちょっと前のゲーセンに通ってた人はわかると思うんだけど、顔とユーザーネームは知ってるけど本名や連絡先は知らない謎の関係性心地よかったよな。そういう環境って俺が経験した場所で言えばメイド喫茶とかカードショップとかバーとか、そんなもんか。仮面舞踏会のようなイメージ。その場所にいればその場所以外では成れない顔になれるみたいな。
そういうわけで、中3の冬になればさすがに俺も勉強しようかなと思って移動時間のかかる遠くのゲーセンになんか行かなくなった。塾は金の無駄なので親に頼んで辞めた。

高校生になって通う高校の場所は彼と同じ高校で、そうなれば当然遠かったゲーセンが学校帰りに寄れるゲーセンに早変わり。再びそこに通うようになっても彼は居なくなっていた。彼は僕と入れ違いで高校を3月で卒業していたのだから当たり前だ。

彼と過ごす時間は中々心地よかったはずなのに、俺のコミュ障からか彼のコミュ障からか、あと一歩が踏み出せなかったのかもしれない。
かといって、どこかの大学か就職か浪人かで地元を離れた人と連絡を取り続けてなんになったのか?あるいは今も友達で居られるほどの関係になれたのか?仮定の話は意味もなくここで、この昔話はおしまいになる。

ほぼ再会の目が無いので完全に思い出になっている人との話なので美化されてるというか、良いことしか思い出せない。別に喧嘩するほど深い仲にもならなかったから当然なんだけど。それにしても会話してて不快な感情になった記憶も無いので上っ面な関係だったんだとも思う。


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