JESSICA no.3
菊水での10年のはなし
私にとって、菊水はいつでも少しだけ特別だった。
高校は菊水にあったし
大学のバイト先は菊水だったし
最初の職場は菊水だった。
最初の職場を辞めて
離婚したときに
はじめて自分で済む場所を選ぶ段になって
やっぱり私は菊水を選んだ。
菊水という場所は
とても便利な場所で
大通りやらすすきのやらの繁華街から
とても近いのです。
でも、菊水に住むという話をしたときに
両親は少し難しい顔をした。
菊水はそういう土地柄なのでした。
私にとってはどうでもよかったのです。
一人で安心に住める場所が菊水だったのです。
考えてみれば美しい地名です。
そこで私ははじめてひとりで暮らし始めたのでした。
孤独で、楽しく、良い暮らしでした。
すべてを自分で決められるということは
善きことだったのです。
善き暮らしは10年ほど続きました。
友達が近くに引っ越してきたりして
とても幸せでした。
私ひとりの暮らしは
菊水と共にあったのです。
あのとき
ぎりぎりで
どうしようもない自分を
一緒に生きていたのは
菊水のあの部屋です。
多分、あの部屋は
ジェシカ3号だったと思う。
(ちなみにジェシカは金髪だった学生時代のあだ名で、ジェシカ2号はそのときの愛車だった)
それでも
私は、今、そこを出ようとしている。
そのことについて、
驚いてはいるけれども
ためらいはない。
ためらいはないけれども
あなたに感謝している。
あの日、私は、あなたのおかげで生き延びてこれた。
ありがとう。
愛しています。
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今の話ではなく、これを書いたのも、何年か前の話なのでした。
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