アーティゾン美術館「マリー・ローランサン ― 時代をうつす眼」感想と見どころ
1.概要
アーティゾン美術館で開催されている「マリー・ローランサン ― 時代をうつす眼」を観てきました。昨年に続きローランサンワールドを堪能してきました。
2.開催概要と訪問状況
展覧会の開催概要は下記の通りです。
訪問状況は下記の通りでした。
【日時・滞在時間・混雑状況】
日曜日の13:30頃訪問しました。時間指定の最後の方に入場したためか、混雑はしていませんでした。これから会期末になるので混むかもしれません。割とコンパクトな展示で、石橋財団コレクション選も含めて1時間半ほどで観終わりました。
【写真撮影】
一部を除き撮影可能でした。またスケッチ可否が表示されていたのも教育普及活動に熱心なアーティゾン美術館らしいところでした。
【グッズ】
オリジナルグッズはやや少なめでした。お菓子や紅茶のラインナップが充実していたのがローランサンのイメージに合っているように思いました(笑)。
3.展示内容と感想
展示構成は下記の通りでした。
昨年Bunkamuraザ・ミュージアムで開催された「マリー・ローランサンとモード」は1920年代のローランサンに焦点を当てていましたが、今回はローランサンの生涯を通した幅広い画業を紹介するという内容でした。ローランサンを"「前衛的な美術運動」や「流派」を中心に語る美術史中にうまく収まらない存在"(展覧会キャプションより)としてとらえ、他の作家の作品との比較を通して魅力を探るという点もテーマになっていました。
一般的に知られるパステルカラーの少女画に加えてキュビズムの画家と目されていた時代の作品、物語に付けた挿絵、舞台芸術のアイデアなどが展示されていて、多彩な作品を味わうことができました。ただ通して見るとそれぞれの仕事でローランサンならではの美学が貫かれているようで、このあたりが"わが道を行くという姿勢を貫いた"(展覧会キャプションより)と評される要因かなと思いました。
時代ごとに色彩が変化していく様子を感じられたのも見どころでした。終章のキャプションではローランサンが主に使用していた絵の具が4色のみであること、自ら赤が苦手だと書き記していたことが紹介されていて、興味深いものがありました。限られた色数で儚げな雰囲気や奥行きを表現したところもローランサンの魅力だと思うのですが、創作の裏側を垣間見たように思いました。
4.個人的見どころ
特に印象深かった作品は下記の通りです。
◆マリー・ローランサン「サーカスにて」1913年頃 名古屋市美術館
ローランサンがキュビズムに傾倒していたころの作品とされていますが、根本的な関心が他の作家と違うように感じられました。キュビズムは物体を複数の視点から描くという点で主眼は物質を描くことにあったのではないかと思います。この時代のローランサンの作品も人物の顔と体の角度の相違や背景の描き方はキュビズム的なのかもしれませんが、画面から伝わるのはリズム感であったりアンニュイな雰囲気で、物質を描くことをテーマにはしていないように思いました。特に「サーカスにて」は動きや人物の関係性を連想させ、既に独自の作風を確立していたのではないかと感じました。
◆マリー・ローランサン「椿姫 第10図」1936年 マリー・ローランサン美術館
本展ではローランサンの挿絵画家としての側面も紹介されていて、中でも小説「椿姫」の挿絵は印象に残りました。全12点が紹介されていたのですが、ヒロインの無邪気さ、したたかさなど様々な面が表現されており、一枚一枚テーマカラーがあるところも面白いと思いました。中でも第10図は珍しくモノトーンが基調になっており、他とは異なるシャープな魅力がありました。
◆マリー・ローランサン「扇」1919年頃 テート美術館
静物画のコーナーに展示されていた作品なのですが、鏡(絵の額縁?)に映った人物の孤独感、閉塞感が表れているところに魅力がありました。絵画にストレートに心情が込められているという点で、ローランサン作品は文学的だなと思いました。
◆マリー・ローランサン「田園の祭典」1928年 マリー・ローランサン美術館
群像を描いても女性しか出てこないところにローランサンのこだわりが感じられました(インスパイアされたバレエ作品が女性のみなのかもしれませんが…)。展覧会全体を通してローランサンはマティス、ピカソ、ブラックの影響を受けながらも独自の画風を築き上げたというストーリーがあったように思うのですが、むしろどこかで男性中心の美術の世界に見切りを付けた瞬間があったのではないかと想像してしまいました。そのあたりのモチーフの選択や心情に迫る考察があっても面白かったかもしれません。
◆マリー・ローランサン「プリンセス達」1928年 大阪中之島美術館
赤、青、黄色など原色が多用されていて、生命力と親しみやすさを感じる作品でした。先ほど紹介した終章のキャプションを踏まえるとローランサンの創意工夫が窺われ、より作品に思い入れが湧きました。
同時代の他の作家の作品も多数展示されていて、個性派揃いの時代だった様子が伝わりました。中でも下記の作品が印象に残りました。
◆ラウル・デュフィ「ポワレの服を着たモデルたち、1923年の競馬場」1943年 石橋財団アーティゾン美術館
画面全体が発光しているような強烈な緑にインパクトがありました。要所要所に挿入された補色の赤も効いているのかもしれません。人物が様々な方向を向いてファッションをアピールしているところもおしゃれでした。
◆東郷青児「スペインの女優」1922年 SOMPO美術館
東郷青児はデフォルメが効いたロマンティックな画風のイメージがあったのですが、写実的な人物画も描いていたことが意外でした。こちらは暗い色調ながらどこかスペインらしい情熱も感じさせるところに魅力がありました。
5.延長戦
石橋財団コレクション選の「特集コーナー展示 野見山暁治」も楽しみにしていました。昨年「日曜美術館」の特集を見て凄い人だなと思ったのですが、実際の作品はよりパワフルで圧倒されました。天変地異のような異様な光景が描かれているのですが、縦横にきっちり引かれた線からはどこか規則性のようなものも感じられ、見ようによっては重厚な構造物のようでもありました。メッセージ性の強いタイトルとも相まって色々と想像力に訴えるものがありました。先輩、友人作家の作品や交流の記録も展示されていて、当時の熱気のようなものが伝わってきました。気難しそうな藤田嗣治を「人のいい巨匠だった」と評していたのが意外でした(笑)。
こちらで印象に残った作品は下記の通りです。
◆野見山暁治「かけがえのない空」2011年 石橋財団アーティゾン美術館
私には空中要塞が崩れ落ちていくように見えました。これから空も崩壊してしまうからかけがえのない空なのか、それとも空を覆っていたものが失われかけがえのない空が姿を現すのか、どちらにも感じられ考え込んでしまいました。
◆藤島武二「蒙古の日の出」1937年 石橋財団アーティゾン美術館
シンプルな描写から大陸の雄大な自然が感じられ、「日本人がこの景色を見たら感動するよな」と思いました。
6.まとめ
企画展、コレクション展とも感じるものが多い内容でした。会期残りわずかですが、興味のある方は是非!
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