tokam

映画や書籍のメモ代わりに。

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最近の記事

さがす

★★★☆☆ 3.4点 陰惨で残酷な大人たちの物語であると同時に、伊東蒼演じる子供が、子供であるという根拠だけで眩しいほど倫理的に振る舞うという救いの物語でもある。いやむしろ『さがす』は子供の力を描いた映画だ。 陰湿で絶望的な大人たちの世界に、伊東蒼が子供だけに宿る経験以前の超越的な倫理で挑む。伊東蒼は親が佐藤二郎でなくとも、親であるということのみを根拠に親探しをしただろう。卓球場でのクラスの男子とのシーンは性愛より子供性の強調のために描かれている。始めから終わりまで走り回り自

    • フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

      ★★★★☆ 4.2点 フレンチ・ディスパッチはいわば記者列伝の映画だが、それ以上にビル・マーレイ演ずる一人の編集長の映画である。それにしてもなぜ彼は自分の死後雑誌を廃刊することを遺言したのか(これは映画冒頭の出来事なのでネタバレにはあたらないと思うのでご安心を)。例えば野球チームの監督が自分の死後チームを解散させることなど有り得ないし、ボクシングジムのオーナーが自分の死後ジムを強制的に閉鎖することも許されない。そんなことをしたら非難を受けても仕方ないだろう。「良い選手、良いコ

      • 害虫

        ★★★☆☆ 3.6点 宮崎あおい演じる主人公には世界と自分との間に緩衝地帯がない。中学生は「〇〇って〇〇らしいよ」という構文で世界を把握する。いわばフィクションを紡ぎ出し教室で語り合うことで世界の実体に近づこうとする。一方、宮崎あおいの世界の把握はドキュメンタリーである。母親のことすら物語化して把握しようとはしない。そして蒼井優もその知性と倫理からノンフィクションで世界に迫ろうとする種類の人物だ。しかし蒼井優は、ドキュメンタリーの世界に主観的な正義を持ち込んで語ろうとするゆえ

        • コーダ あいのうた

          ★★★☆☆ 3.3点 こんなに何の変哲もない映画を観たのはいつぶりだろう。物語を効率的に語ることに全霊を注ぐ。それだけで平凡極まりない物語が映画として輝く。プロセスと遅延ばかりを描き長時間化する凡百のハリウッド映画の中にあって、刮目すべき「普通の映画」。

        さがす

          ウェンディ&ルーシー

          ★★★★☆ 4.0点 人間は一人ひとり多様なようでいて、たかが知れていて、たかが知れているようでいてやはり手に負えないほど多様である。ウェンディのアラスカへの旅は「よくある稀なこと」に過ぎないが、なぜウェンディが旅するのかは誰にも分からない。

          ウェンディ&ルーシー

          オールド・ジョイ

          ★★★★☆ 3.8点 かつて喜びだった平穏な日常は、いまや終わりなき日常という哀しみへ。犬ではない人間が、孤独と無力感を抱えながらその世界でどう冒険的に生きていくことができるのか。

          オールド・ジョイ

          ミークス・カットオフ

          ★★★★★ 4.8点 パターナリスティックで父権主義的な男と、救世主かも知れない野蛮な男との間を揺れ動く、子供扱いのあるいは迷える子羊扱いされた女たち(の意志と強さに目覚めるまでの闘い)。 開拓の地から約束の地を目指す旅へと変わった後にも、ほんとうにその男が救世主なのか分からない。そもそも救世主の男だとして、女たちはその男に導かれるままで良いのか。 西部の荒野を背景に神話のように厳かに展開される女たち男たちの物語。

          ミークス・カットオフ

          ハウス・オブ・グッチ

          ★★★☆☆ 3.2点 大女優への階段を着々と登るレディ・ガガ。アダム・ドライバーはいつも同じ。受動的なやさ男。それが徐々に少年のような手強い頑固さを発揮する。それが現代の「愛すべき男性像」ということなのだろう。それではもったいない気がするが、それは買いかぶりすぎで、案外そもそもそういう紋切り型の役割を担う「スター俳優」の一人に過ぎないのかも知れない。

          ハウス・オブ・グッチ

          春原さんのうた

          ★★★★☆ 3.9点 なぜ人間はただ存在しているだけでは悲哀を背負って見えるのか。その問いは、なぜ無表情の人間は哀しそうに見えるのか、そしてとても愛おしいのかと同じだ。無表情には、喜びや悲しみや怒りや笑いといった記述に束ねられる前の、その人間の固有性がある。無表情だけに、その人間のどのようにも記述尽くされ得ない固有性がある。そしてそれは、安らかな寝顔と死顔もまた同じである。無表情と寝顔と死顔には、喜怒哀楽がない。ただその人間の存在の固有性があるだけだ。 無表情から解かれ、沙知

          春原さんのうた

          クライ・マッチョ

          ★★★☆☆ 3.2点 あまりの堂々とした駄作ぶりにかえって摩訶不思議な怪しい魅力を放つ。これは一体なんなんだ。 ハリウッド映画の手法によるゴダールを凌駕するほどの自己言及的映画なのか。もしそうだとするなら、何か凄いものを観た気がするし、そうじゃないなら正直に告白して私にはこの映画が何だったのかまだ良く分からない。 https://wwws.warnerbros.co.jp/crymacho-movie/

          クライ・マッチョ