生臭と坊主・11

 慶一が駐車場のカブから荷物籠を外す間、モップの柄をリュックサックと背中で挟んだ豊の通話に聞き耳を立てる。
「集団による宿泊女性の誘拐──」
通話相手は豊の上司、超特班を設立した男に異常事態の一連を伝えているのだ。慶一がカブに跨がっても親友はまだ喋っているが、
「出して」
豊も後部の荷台に乗り、その左手が肩を掴んできた。
 アクセルを入れ、民宿みぎわの灯から離れる。
 街灯はなく、小動物が今すぐ眼前に飛び出してもおかしくない道だ。
「第一級事態、現場判断による行動承認出た」
通話を終えた豊が言う。
「つまり?」
「相原さん救出に手段を選ぶな」
「OK。でも面倒だな。一々承認もらうのとかさ」
「でも県警の機動隊が応援に来る。45分で来たら御の字だけど、俺達がここに来たことで県警は応援の準備をしててくれてる。親分は今頃県警と連携してくれてるよ」
「機動隊、マジか」
 カブは緩いカーブに差し掛かった。
「見えてきた」
慶一の視界の奥には路駐の軽トラックと原付、汀戎の鳥居がある。美奈を拐った奴らはそこに居るのだ!
「よし!やるぞ」
「あいよ」

***

 軽トラックとカブの集団は汀戎前で止まり、
『戎様!』
『戎様!』
と鳥居側の街灯に照らされる島民は叫びながら美奈を汀洞へと運び出す。
 そこにもう一台、カブのライトとエンジン音が迫る。

 そのカブにノーヘルで二人乗りする男達はいきがっている中学生ではない。国家から正式な命令書を持った刑事と拝み屋、超自然特殊捜査班だ。

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