生臭と坊主・15

 緑の光の粒が宙を漂いながら照らす『そいつら』の身長は優に6メートル、境内の松林の天辺からはその肩から上が見える。
 顔は獰猛な魚のようであり、鰭と爪がある四肢、長い尾、肩と背中から生える2対の触手、鱗に覆われた体型の何れをとって見ても怪物でしかないが、水の者に相応しい美しい流線形を持っている。
 『そいつら』の存在感は人類の本能を恐怖で揺さぶり、大いなる神の分霊であることを知らしめ、人類など取るに足らぬ存在であると突き付ける。
「あれこそ戎様だ!」
狂信者の誰かがそう叫ぶ。その言葉で彼らは一斉に体たらくを引きずりながら、
「戎様、助けて下さい!」
「豊漁にして下さい!」
「島を荒らす輩に罰を!」
『そいつら』に平伏する。『そいつら』はと言うと怪訝に小首を傾げ、『そいつら』同士は顔を見合わせたが──一歩進み出た『そいつら』の片割れが体の触手を振るい、松林ごと島民を凪ぎ払った。巨体からの攻撃で明らかに絶命した者、血を吐き出す者が境内に転がる。
 片割れが未だ動かぬ片割れを一瞥した。女性的な体の線の片割れは両手を広げ、口を小さく動かしている。ゲームで見るような魔法の詠唱のように。その体からまたしても緑色の光の柱が上り、その真上の光から──またしても化け物が現れる。

 化け物の一つは猿にも昆虫にも見える存在であり、鉤爪のある腕は長く、退化したような小さな目が赤く光る。
 もう一つの化け物は蛇のように長い胴と蝙蝠の翼を持ち、龍に似ている。しかし口元と尻尾の先にあるのはうぞうぞとした触手だ。

 女の化け物が片手を高く掲げると、招かれた化け物達は生き残っている狂信者に牙を剥く。教義を取り違えた狂信者は今度は『そいつら』と戎を取り違え、文字通り叩きのめされ、結果、恐怖で狂うか自我を砕かれた。そして精神崩壊した体は物理によるとどめを受け、呆気なく死んでいく。運がいい者は成す術なく汀洞に逃れ、松の木陰に隠れ、ただ震えるしかない。

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