生臭と坊主・14

 二人で美奈を支えながら汀洞から境内に出た。
「軽トラを失敬して港へ」
境内ではまだ呻いている者、二人を見て腰を抜かす者がいる。逆光を浴びながら見下ろしてくる豊に素頓狂な悲鳴を上げ、立ち上がることなく失禁までしてしまった者もいた。ちなみにそいつはまともな台詞を何も言っていない。
「やりすぎた?」
慶一が問う。
「やりすぎじゃないって直に判る。もう少しだ」
 鳥居を潜り、軽トラックと原付が止まっている県道に出た。ちらりと運転席を見れば案の定、鍵は刺さったままだ。
「通行に邪魔なものを片付ける。彼女をちょっと頼んでいいか?」
「鍵は?」
「大方差しっぱなしさ。田舎だから盗る奴はいない」
「なるほど」
美奈を親友に託した豊は最後尾の軽トラックの運転席を見れば案の定挿しっぱなしのキーホルダーが見えた。荷台は敷かれたシートくらいしかなかった。
 その軽トラックの後ろには二人が乗り付けたカブが道を塞ぎ、道路で悶える狂信者が、
「助けてくれ」
と情けない声を上げる。
「被害者の安全を確保したら助けてやる」
彼を担いで道路脇に横たえ、カブを退かせば慶一が最後尾の軽トラの側まで近付いていた。
「彼女を荷台に。運転出来そうか?」
「何とか」
後部のアオリを外し下ろした豊は荷台に飛び乗り、美奈の上体を脇から支えて乗せ上げた。美奈の頭を胡座の脚に乗せれば彼女は小さく呻く。
「もうちょいだ。頑張れ」
そっと肩を叩いて励ましても返事は出来ていないが、容態は悪くないと判断した。
 慶一がアオリを戻してから問う。
「なあ、これってバックで走れってこと?街灯ないし、怖いんだけど」
「そう言うこと。俺が見てるし、Uターン出来そうな所があれば知らせる」
「そりゃ安心だ。頼りにしてる」
「任せな」
ようやく二人は笑みを見せた。
 その笑顔が緑色に変わる。鳥居の側の街灯の光が緑を冒涜した色に変わったのだ。
「!?」
蛍光灯に色変更機能なんてあったか?理解出来ない。
「ケイ、何が起きてるか解るか?」
「解らん」
その返事が掠れ、震えている。
「解らんけど」
息を飲んだ慶一が目を見張り、
「来る」
と呟いた。
「来る?」
「ああ、来る。何か来る」
「何かって?」
「解らん。でも何かヤバいのが来るって」
悪霊かその類の存在だろうか?否、慶一の顔はそれ以上に『ヤバい何か』の接近を告げている。その何かの正体がオカルトに明るい慶一に解らないなら豊は尚更解らない。
 足元が一瞬大きく揺れ、軽トラックの荷台を細かく震わせ続ける。
 本殿から冒涜色の光が放たれ、それは天にも向かい、禍々しい陰影を持ってしまった雲を貫く。貫かれた雲は緑光が混じる渦となり、同じ緑色の稲妻が雲と雲を、空から地を渡る。
 一際大きな稲妻が本殿を撃ち、古びた木材が弾け飛んだ。その破片と煙の中から有り得ない存在が2つ現れる。

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