燃やしても消えない 削ったらなくなる 僕が生きている証 それは燃やしている時 それは灯火 陽炎のゆらめき 蜃気楼の中から 燃える音が響く それは目を それは耳を それは君を それは僕を 幻へ誘う その先で 灯火に憩う 僕たち 燃やしているか? 削っているか? もし疲れたなら ともに憩おう 消えはしない 憩いも命も 燃ゆる命の 灯火は永遠
なんにもない もうなんにもでない でもそれ自体も 創作の糧 枯れてゆく もう無くなりゆく それは怖いけど 新しい道 うしなった もうとりもどせない でもそれ自体を 認めたならば そのときに 枯渇したままに みえないしぶきが 湧きいでてくる まずしさと 飢餓のなかでさえ 笑みを絶やさない 子供のように みえぬ水 それを求めゆく エネルギーこそは 枯渇の中に 枯れる苦しみ 満たされぬ心 それを潤せ 命を燃やして
くちを めを こころを そうして あたまのなかで おもいでをとじる まどを とを ざっしを そうして こころのなかで みずからをとじる まくを めを ひつぎを そうして みんなのなかで おもいでをとじて とじる とじる とじてゆく
くちを めを こころを そうして ひかりをみて くちをひらいてこえあげる まどを とを ざっしを そうして ちしきひろげ みちをひらいてすすみゆく まくを めを ひつぎを そうして かなたみつめ こころひらいてうけとめる ひらく ひらく ひらきゆく
もしもこの街に ひっそりと 罠が仕掛けられていて 痛みもなく死ぬ仕組みなら いったい何人かかるだろう 罠だと分かっていても その中にある 餌につられて スズメバチを殺す 蜜蜂のように 集うんじゃなかろうか 花の蜜のような 死を求めて
かつての喧騒が掠れてく 使っていないわたしの喉 言葉もいつから口にしてないか 声の色も掠れていくだけ 動かない足、誰も来ない家 窓を見るだけの目だけがある 誰かいるかい、いてもいないが 私の家は老いるばかりで 家族がここにいたのだろうか 床には死んだ言葉のシミだけ 子供がこぼしたご飯のシミも 私がつけたご飯のシミに でももう誰もいないのだ かつての喧騒が 私の孤独に上塗りにされ あのシミさえも今愛おしい 粗相のシミもご飯のシミも 涙のシミもよだれのシミも 全部もう1人
赤レンガの大聖堂 その日そこに礼拝したのは 歪んだ太陽だった 信心を焼き焦がし 子羊を瓦礫に埋め 聖人たちをかき消した 業火と瓦礫 血と呻きの 地獄の中の大聖堂 歪んだ太陽 同じ信徒の創作物 同じ信徒を地獄に堕とす その熱線 聖者の四肢を吹き飛ばし 神の身姿を消し去ってゆく 罪なき信徒 信徒に焼かれ マリアは火炙りとなった その大聖堂 地獄の中に 信徒の作った太陽に燃え 栄光あれ 栄光あれ、と 信徒の国は神殺し讃え 第Ⅲ度熱傷のマリア 炭化した聖人たち 壊れた
チャップリンは言いました ロングアップとクローズアップ 遠目の喜劇と間近の悲劇 しかしどちらもレンズ越し 映画ならもちろん良いけど 苦しみは目の前にある 人それぞれの苦しみが 人それぞれの痛みのもとに 君の苦しみ、僕の苦しみ それは映画のフィルムじゃない どうかレンズを外して下さい 苦しみに批評家はいらない
燃えている 輝いている 学校の屋上 高層マンション 向かい側の 高層ビルで あるいはベッド あるいは踏切 ドアの前で トイレの前で あるいは山奥 あるいは水際 可視光線に なれないパルス 今際の星 はじけ輝く ほら今日も 見えない星が 真っ黒な闇に 満天に輝く
水を一杯 花を一束 手には数珠と 真の御題目 それを背にして 街宣車からは 右も左も 叫び声 碑の死者に口はなし あるのは名前 名前すら ない人もいる それを背にして 旗振るパレード 右も左も 御題目 この日街から 沈黙が消える 真に祈る 沈黙が 碑のもとで 死者の前で 争いの種火を ちらつかせている そしてその夜 子どもたちは 川べりに立ち 灯を流す
風に舞っている 土に紛れ込む 水に馴染んでゆく 炎の産物 もとの姿を忘れて もとの重みを失って 炎が暖かくかき消してゆく そして解けた生命が 微粒子となって 世界を揺蕩う 風の旅客機に乗って 魂のパスポートを見せて あらゆるところへ 旅立ってゆく
少し背中を丸ませて あなたの胸郭が広がり あなたの体温を伴って あなたの気管支を通る その ため息には あなたの心が 含有されている その源が僕の事なら その ため息を吹きかけて 返してくれたっていいのに わざわざ背中を丸ませて 僕の遠くでため息をつく 生温かいため息をつく 僕に見えない暗がりで あなたはため息をつく 見えないかもしれないけど 僕は凍えているのだ
開けられるドアは限られている 人生の中で限られている 僕は震える手でドアノブ握り ドアをグッと押し開ける ドアを開いたら 地面がないかもしれない 隣にいた人の声は どこか遠くへ消えてった 開けられるドアは限られている 1日の中で限られている 君に会うためのドアノブ握る ドアはシンと動かざる もう会えない もう開かない 目の前にドアが迫り 僕をゆっくり押しつぶす
世間体という箱を開けたら 殺意が入っていた 底には希望なんてない そして箱の後ろから シンデレラの足音が聞こえる 最期に質問をしよう 君は箱を開けたなら 一体誰を殺したい? 舌切り雀かパンドラか いずれにしても箱の中 道ゆく人の シュレーディンガーの殺意
本物は死を選び 偽物が生き延びる 分断された人々が 理想的な偶像に 難癖をつけて 解体している そうしてその偶像の 創り手は絶望し この世を去ったとき 人々は言うでしょう 生きていたら良かったのに
〝大人〟という言葉は よくできた嘘である 大人という言葉で やっと仕立て上げられるだけ しかしながらその嘘を 嘘だと知り生きるのならば そのときにその人は 少しばかり陰が同居する 〝大人〟という言葉に 頼るな人の子たちの僕ら 言葉の枠に甘えちゃならない 言葉の内に見出してゆけ 人間を見出してゆけ 〝大人〟のなかに大人はいない 〝子供〟のなかに子供はいない ただ人がそこにいるだけ 言葉を脱ぎ捨てた 裸の僕らが そこに いる