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性転換をする天南星

実家の裏山の比翼塚

子供のころ遊び回っていた裏山に比翼塚があった。鬱蒼とした杉の大木の下にその塚はあり、苔むしていて何が書いてあるかも分からない。曽祖母に聞いても誰のお墓だかわからいという。
その場所は少しジメジメしていて、大きな天南星が生える。天南星のことを蛇の杓子と呼んでいた。名前からしてあまり気持ちいいものではなかった。蛇の杓子が生えている場所と比翼塚の組み合わせが、だんだん歳を重ねるごとに薄気味悪いと思うようになった。
天南星の時期になるとその周りには、エビネランが色とりどり咲くのだった。その姿に惚れ惚れしていれば、蛇の杓子のことなど忘れてしまうのだった。
大人になってからエビネランのあった場所に行っても、その姿は見ることができなくなってしまった。一時期野草がはやって乱獲されてしまったのだろう。蛇の杓子は相変わらずあちこちに生えていた。

天南星という植物

今、私は鎌倉に近い横浜の外れに住んでいる。
すぐ近くに雑木林がありその尾根伝いに歩くと鎌倉の寺院にたどり着く。犬を飼っているころには、よくそれぞれの山道を歩いたものだった。
山路の脇に浦島草や天南星の仲間が生えていてよく見かけた。故郷で見かけた天南星属の植物は見た目があまりよくなかった。しかし、横浜で見かけるのはそれほど気味悪いとは思わない。
天南星属は世界では180種、日本では30種以上があるらしい。
近所で見かけるのは、浦島草がほとんどである。仏炎苞の先にあの釣り糸を垂れているのを見たとき、なんてユーモラスなのだろうと感じた。不気味さはほとんど感じなかった。緑色の天南星も見かけるが、故郷の物のように気味悪いとは思わない。
秋になるとまるで赤いトウモロコシのように見える種子ができる。
多年草で球根があるのに種子までできるので、裏山に行くとどさっとかたまって芽が出ているのをよく見かける。小鳥が種子を運ぶのか、たまには庭の樹木の下に浦島草が芽を出して大きく育つこともある。

肥料次第で性転換を行う

天南星属は球根が雌雄別々になっていて、肥料の状態がよくなると雄株が雌株に変わるという面白い植物である。逆も考えられるようだ。
つまり栄養状態によって性転換をするという。
性転換の後の受粉が、これまたあの不気味さを物語るような話。天南星を好む小蝿がいて、仏炎苞の中に入るとツルツル滑って上がることができなくなる。
雄株の仏炎苞の下の合わせの部分を見ると、わずかに空いている。中で暴れに暴れて花粉まみれになり、その穴にたどり着いた蝿は外に出ることができる。めでたし、めでたしと思うのはまだ早い。
今度は花粉まみれのまま雌株の仏炎苞に入っていく。雄株のときと同じように暴れまわる。
一巻の終わり! 雌株には合わせの部分に穴が空いていない。ご愁傷様!


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