ブンブンスカイファーム

無駄巣

父が養蜂家だったこともあり、小さい時からミツバチに接することが多かった。蜂蜜はいつも食卓にあったので、好きなときに好きなだけ消費できた。蜂蜜よりも私が好きだったのは、蜂蜜を採るときに出る無駄巣だった。

無駄巣とは、ミツバチが蜂蜜を貯蔵するところが足りなくなって作る巣や巣の間に一定以上の隙間ができると作る巣のことである。ミツバチが一番よく働く春から夏にかけて無駄巣は作られることが多い。

働きバチは、自分の体からロウを出して巣を作る。出来立ての巣はきれいな蜜蝋の色をしている。そこに蜂蜜を貯める。ミツバチにとっては無駄な巣ではない。必要な巣! でも人間は、それを無駄巣といって蜂蜜を採るときに取ってしまう。

私はこの巣を頬張るのが大好きだ。ミツバチを飼ってないと出会えない。子供のころは、学校から帰るとおやつに無駄巣を頬張った。それに鼻づまりをしているのが、気がつかないうちに鼻の通りがよくなるのが常だった。それはなぜなのか、いまだにわからない。

無駄巣に似たようなものを商品化して売っている。それは、巣蜜という。一度だけ買って食べてみたことがある。内容は同じようなものだけど、私には少し違った。とりたてを食べるのとは違ったもののように思えた。


横浜でミツバチを飼いたい

今の所に移り住んでからミツバチを飼いたいと思うようになった。また、あの無駄巣を食べたい!

ちょうどミツバチを飼いたいと思うようになったそのころ、ある新聞記事が目にとまった。

パリオペラ座の屋上でミツバチを飼ったら、大変うまくいっているという記事だった。パリという大都会で飼えるのだったら、私の住む自然豊かか横浜の田園都市で飼えないはずがない。私は幼いころから好奇心の強い子だった。それを壊すこともなく経験に勝るものはないというので、特に父がいろいろなことを経験させてくれた。それは今でもつづいている。

よし! ミツバチを飼おう。父がずっと養蜂器具などを購入していた岐阜の業者の名前をよく覚えていたので、そこに電話をしてミツバチと養蜂器具一式を送ってもらう手はずを立てた。ミツバチが活動を始める3月はじめに、届くことになった。


ブンブンスカイファームに、ミツバチが届く

「この仕事を始めて、初めてです、生きたミツバチを運ぶのは!」

宅配業者の方が、目を白黒させながら届けてくれた、ミツバチと養蜂器具一式を! 生き物なので朝一で届けるように段取りはすんでいた。

ミツバチの入った巣箱は重い。段々畑の所定の場所まで、運んでもらった。午前中、静かにそのままにしておいた。

道具一式を伝票と照らしあわせた。燻煙器と防護服を用意して午後まで待った。

燻煙器の使い方は、父がやるのを小さいときから見ていたので、懐かしく思い出しながら、火をつけて煙を作った。煙をシュッ、シュッと出しながら、巣箱のミツバチたちの出入口をそっと開けてやった。

早く出たい、出たいと待ちわびていたミツバチ。出口のプラットホームに出てきて、あたりを見回して飛んで出た。巣箱のあたりをよく観察してから、遠くへと飛んでいった。こうして次から次へと飛んで出ていった。

巣箱の置いてある目の前は、断崖の下で竹藪になっている。その先にコンコンと水の湧き出る遊水池がある。ミツバチたちを邪魔する建物などは全くない。ミツバチたちにとっては、格好の場所だ。断崖の上にあるので、まるで空中に浮いたように感じる。

ブンブンスカイファーム! ブンブン飛ぶミツバチを観ながら、頭に浮かんだ言葉は、ブンブンスカイファームだった。


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