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Ⅱ.現代アートのはじまり(ⅰ‐b)ミニマル・アート

ミニマル・アートはポップ・アートと共に1960年代に発生した重要な芸術の動向とされており、代表作家のドナルド・ジャッド(1928年-1994年)が1965年に発表した論文「特殊な客体/特定の物体」においてその理論の提唱がなされています。ABCアートやリテラリズムなど様々な呼称が用いられますが、同じく1965年に批評家のリチャード・ウォルハイムが用いたミニマル・アートという呼称が定着しています。抽象表現主義の理論を究極に推し進めた動向であり、色彩、形態や素材が切り詰められ、同一単位が反復的なイメージをもって展開される特徴があります。モダニズムの自律的なそのもの自体を志向する理論を切り詰め、物質性を直接的に表象させる意図のもと、ミニマル・アートの基本造形は立体作品となっています。形態を純化させたことによって周囲の環境や鑑賞者との関係に深くかかわるようになり、ドナルド・ジャットの論文においても環境と作品との関係性を作品構造に取り込む意思が表明されています。
ドナルド・ジャット(1928年-1994年)は1950-1960年代の優れたモダニズム芸術は、「彫刻でも絵画でもない」ものと述べ、これをスペシフィック・オブジェクト(=特殊な客体/特定の物体)という概念を用いてその傾向を説明します。スペシフィック・オブジェクトとは、モダニズム論において排除されるように物語や遠近法(=イリュージョン)を排し、見る場所や状況によってイメージが変化し、単一的な構造をもち、三次元空間に積極的な関係を持つものだとしました。ジャットは純粋芸術の突き詰めた先に、いま、ここにある、そのものの直接的な提示にたどり着いたものでした。
批評家のマイケル・フリード(1936年-)はミニマル・アートをめぐる最も有名な論文「芸術と客体性」を1967年に発表しています。フリードはドナルド・ジャットなどの作品に対し、「演劇的である」として批判を行います。概ねその主張はミニマル・アート(フリードはリテラリズムと呼称)が芸術作品の自立性を欠いたものであり、鑑賞者や環境といった客体との相互関係で成り立っており、純粋な知覚が行われないものだとしました。ジャッドの提唱するミニマル・アートのフリードの主張はグリーンバーグからの多大な影響を受けたものでした。一方でフリードはアンソニー・カロ(1923年-2013年)の作品を取り上げ、カロの作品には瞬時性があり作品に自立性があるとして評価します。瞬時性とそれに対比される持続性とは、フリードの「芸術と客体性」において用いられた概念ですが、鉄鋼材が組み合わされたカロの作品は、一見ではその全体性を把握できないものの、作品の周囲を回って鑑賞する中で、一瞬超越美のイメージが立ち現れる点をその作品構造の部分の関係が作り上げているとフリードは評価します。フリードはジャットの方法論が持続性を持ち、鑑賞者により鑑賞される時間によって立ち現れていることに対し、カロの作品の一瞬のうちに美的イメージが立ち現れ、経験されるために無時間的な優れた入津的な作品であるとしました。

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