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『アネモネ』ホワイトデー声劇 準決勝用バッドエンド 『紫』想定3分

『アネモネ』 作 沖ママ


「いらっしゃい。今日も、1人?」


『あぁ。1人だ。』


「いつものでいい?」


『ああ。』


「今日はホワイトデーでしょ?いいの?こんな所にいて。」


『俺がどこに居ようと勝手だろ?』


「ふふふ、それもそうね。」

男《モノローグ》
『カラン……とグラスの氷が音を立てて揺れる。そのグラスの向こうには紫のドレスの女。』


『そういえば紫、好きなのか?』


「えぇ、紫は好きよ。赤や緑、黄色は派手だし、雰囲気に合わないじゃない。だから好きになったのかもね。」


『確かに、派手な色じゃ場違いだな。』


「でしょう?ねぇ、紫ってさ、何かこう……ミステリアスな感じしない?」


『俺を……誘ってるのか?』


「ダメなの?」


『俺がそんな軽い男に見えるか?』


「ガードが堅いから落としがいがあるの。」


『そんなもんかね。俺には……分からん。』


「色恋はね、楽しむものよ。」


『君を色に例えても、紫だな。』


「謎多き女?」


『熱を持った赤のように見えて、冷めた青でもある。どちらもが混ざりあって、紫ってところか。』


「そんな風に見ててくれてるなんて知らなかったなぁ。あなたは……そうね、グレーだわ。」


『グレー?』


「真っ白なような、真っ黒のような不思議な人。どちらもが混ざりあって、グレーな人。」


『なるほどな。』


「ねぇ、やっぱり……ダメなの?」


『ダメだ。これ以上は、戻れなくなる。』


「いいじゃない。溺れていきなさいよ。」


『ダメなんだよ。今日が最後だから。』


「えっ、最後?」


『転勤でな。明日、日本を離れる。』


「……寂しくなるわね。」


『長居(ながい)すると、帰れなくなりそうだ。帰るわ。ありがとな。』


「さよなら。」

男《モノローグ》
『帰り際(ぎわ)に、言葉に出来ない思いを込めて、アネモネの花を1輪、グラスの横に置いて置く。』

女《モノローグ》
「彼が帰ってしばらく呆然としていたが、グラスを片付けようとした時、1輪の花に気付く。」


「これは……アネモネ……。馬鹿な人。」


『サヨナラ。』

終わり

※アネモネ 『青紫の花を咲かせる。花言葉は、あなたを待っています。』

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