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野川のフジバカマの保全活動

1.野川の自然環境について


  約5万年前、古多摩川が、武蔵野台地を削ってできた崖(国分寺崖線)の湧水を集めて、野川は流れています。野川は国分寺市の日立中央研究所の庭園の大池に発し、小金井市、三鷹市、調布市、狛江市、世田谷区を流れて、多摩川に合流する長さ約20kmの都市河川(多摩川の支流であるので一級河川)です。野川の中流域では都立武蔵野公園と都立野川公園の中を流れていて、附近には、国際基督教大学や国立天文台などの大きな緑があり、都市部にありながら、まだまだ豊かな自然が多く残されています。
 「みたか野川の会」の調査では、野川で見られた植物約340種のうち外来種数は41%にもなっていて、野川でも外来植物の侵入・定着が目立っています。 特に、特定外来生物に指定されている植物12種のうち、この付近では、4種(アレチウリ、オオフサモ、オオキンケイギク、オオカワヂシャ)が定着しており、要注意外来生物のオオブタクサが繁茂し、特に目立つアレチウリとオオブタクサの駆除は大変やっかいで、景観を損なっています。

2.活動の目標は


 フジバカマは、秋の七草の一つで、万葉集にも登場しており、日本人には古くからよく親しまれています。河川の湿潤な場所に生育していたが、その数は、近年の都市開発や河川改修に伴い減少していて、環境省の4次レッドリスト(平成27年改訂版)には、NT(準絶滅危惧)に指定されています。東京都のレッドリスト(2010年版)には、西多摩と南多摩ではCR(近い将来においては野生では絶滅の危険性がきわめて高いもの)で、北多摩と区部では、DO(環境条件変化によって、容易に絶滅危惧のカテゴリーに移行しうる属性を有しているが、生息状況をはじめとしてランクを判定するに足る情報が得られていないもの)となっています。北多摩の野川にわずかに残っているフジバカマは、なんとか残していきたいものです。
 このフジバカマを保護するためにも、また野川の在来植物を保護するためにも、まずは、侵略的な外来植物(アレチウリとオオブタクサ)を駆除・抑制することが前提になります。
 私が代表をしていた少人数の「みたか野川の会」では、三鷹市内を流れる野川に繁茂する侵略的な外来植物(アレチウリとオオブタクサ)の駆除活動を7年間(2008年~2014年)行いました。この活動は、野川の河川管理者である東京都北多摩南部建設事務所から、外来生物法にもとづく防除(駆除)の活動であることを認めていただき、アレチウリなどの除草ゴミの処分をしていただきました。この外来植物駆除活動の結果、一時期は三鷹地区の野川には、アレチウリやオオブタクサが目立たなくなりました。しかし、残念ながら「みたか野川の会」の活動は、長く続けることは困難でした。野川は、また元に戻りつつあります。
 2011年8月に根本正之先生の指導で実施した環境講座「野川の外来植物について考える(全3回)」の初回の「野川のフイールドワーク」には42名が参加しました。中には、行政の方の参加も数名加わった。その意見交換の際には、「野川にまだフジバカマが残っていて、是非残したいものだ」と話し合った。しかしながら、その時までは、野川は東京都が年3回一斉の草刈りを実施しており、フジバカマは、花が咲くまで成長することなく、そっと生き続けていたのです。


3.活動の内容


 

①野川のフジバカ保全地区の管理


 野川を管理する東京都北多摩南部建設事務所と協議して、翌年の2012年からフジバカマ付近だけ草刈りをしないようにしていただくことができました。フジバカマが比較的よく残っている野川の法面にフジバカマのための保全地区作りました。野川の高水敷と管理用通路の間の法面(護岸)のフジバカマの自生地に設定したフジバカマゾーン約100㎡(幅約3.5m、長さ約30m)は、湿潤な環境ではあるが、法面内で、増水時にもぎりぎり冠水しない場所にあります。午前中は適度な日照があるが、午後は樹木の陰になり、木漏れ日程度しか日が当たらない場所です。近くには苔がよく生育しています。そして、そのゾーンは市民がフジバカマ以外の野草を除草・草刈りして、適切に管理することになっていいます。月に1回程度、フジバカマの成育に邪魔になるような雑草を刈っています。その結果、フジバカマは順調に成長して、2012年の秋には花が咲きました。その後も順調に毎年花が咲いています。フジバカマの草丈は、ゾーン内でばらつくが、比較的よく育っているもので、9月下旬には約170cmもなり、花期は、9月中旬から10月上旬です。

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上の写真は2014年秋の写真です。まだ大きな株は2ヶ所ほどでした。


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上は2014年秋の写真です。

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上は2015年秋の写真です。段々と増えてきました。


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上は2018年秋の写真です。草丈が高くなると、花が咲くと秋の雨に濡れて、すぐにお辞儀をします。かなり増えました。

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上は2020年秋の写真です。随分増えました。

 

②苗を育て、他の場所にも植栽


野川で採取したフジバカマの種を自宅でセルポットに蒔いて、毎年数10株の苗を育てて、野川や近くの公園、庭園や花壇に植栽して、少しでも多くの人に親しんでいただくように努力をしています。フジバカマの苗の育て方は、セルポットに、市販の種まき用の土を入れ、そこにピンセットで各セルに種を蒔き、毎日一回灌水をして、2週間ほどたつと、発芽し双葉が出てくる。その後、根が張ってくれば、直径10cmほどのポットに植え替る。その際の土は、やはり市販の花用の培養土を使っています。

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上の写真はポットに育てたフジバカマの苗です。

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上の写真は、国分寺市にある日立中央研究所の庭園に植栽した、野川のフジバカマの種から育てた藤袴です。最初の年から花が咲きました。写真は2014年秋に撮影。


これまでに、地域のコミューニティセンター(大沢コミセン)の花壇、三鷹市星と森と絵本の家(国立天文台構内)の花壇、野川の源泉である大池のある日立中央研究所の庭園、野川公園や神代植物公園植物多様性センターなどに苗を提供してきました。自生地と似たような環境でないところでは、生育はあまりうまくいきませんでした。上記の中で、日立中央研究所の庭園は、湧水の小川の近くに植栽でき、最も自生地に近い環境であったため、順調に生育した。大抵は毎年花を咲かせるほどの順調な状況はなかなか保てていない。湿潤なことが最低の条件と見えるが、灌水をしただけでは、必ずしもうまく生育しない場合がある。日照がないと花がよく咲きません。よく、つる性の植物がフジバカマに絡んでくるが、気がつけばすべて取り除いています。また、東京都の草刈りで長年きびしい状況におかれてきた野川の保全地区にも、フジバカマの群落がよく育つようにと、毎年少しずつ苗を植栽しています。これまでに約60株を植栽しました。


 

③フジバカマに来るアサギマダラの観察


野川のフジバカマゾーンでアサギマダラを、これまで、秋の花の季節に4年(2012年、12013年、2015年、2020年)確認しました。アサギマダラはフジバカマの蜜を吸い、有毒のフエロモンを作り、身を守っているといわれています。海を渡って、2000kmも旅をする珍しい蝶です。野川は移動ルートからは外れているようだが、それでも少数が、野川のフジバカマにきてくれます。アサギマダラと出会うことは、活動をする上で大きな励みになります。何とかもっと規模が大きいフジバカマ園を地元に作れば、沢山のアサギマダラが来るようになるかもとの思いもあります。

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 上の写真は2012年秋に野川で撮影したアサギマダラです。

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上の写真は2015年秋に野川のフジバカマにきたアサギマダラの写真です。

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上の写真は2020年秋に野川のフジバカマにきたアサギマダラの写真です。

④レッドリストへの情報提供と植物標本の作成


  東京都環境局自然環境部計画課には、「東京都の保護上主要な野生生物種」情報記入シートがあり、野川のフジバカマの情報も、それに記入して提出した。次回の東京都のレッドリストの改訂時には、野川のフジバカマの情報が、役に立つことと思っています。


 また、フジバカマの植物標本を作製して、首都大学東京の牧野標本館に提出し、植物標本として保管していただいています。

4.今後の展望と課題


 率直に言って、現在、高齢(87歳)になり、体力的に厳しく、細々とこの活動を続けていところです。いずれ、この活動をしっかりと引き継いでくれる人が現れることを願っています。
 また、野川の水辺のフジバカマを守るのは、河川管理者の東京都北多摩南部建設事務所とよく協力して活動していくことが必要です。東京都では、定期的な人事異動があり、担当者が変わります。私は、野川流域連絡会の委員をしながら、東京都との関係を保つ努力をしています。 東京都では、フジバカマの自生地としては、都立水元公園が知られています。フジバカマは環境変化に敏感です。都立水元公園でもフジバカマを保全していくのは大変なようです。フジバカマの保全活動は、気長に継続できるように、関連者ともども、知恵を出し合い、うまく進めていきたいものです。



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