歯医者さんからのお手紙

今回のブログは半分愚痴です。

訪問診療をおこなっていると、その患者さんに「訪問歯科」が入っている場合がります。
そしてときどきその歯医者さんからお手紙が届きます。

それは、
「血液サラサラの薬を飲んでいて、抜歯など歯科処置をするとき」
です。

大抵は、「1週間前から○○(血液サラサラの薬)を中止しても良いですか?」みたいな内容だったりします。

こんなときいつもモヤモヤします。

なぜなら歯科処置のときに薬を中止するかどうかのガイドラインがちゃんとあるからなのです。

抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン

例えば上記ガイドラインには
『アスピリンおよびその他の抗血小板薬単剤投与患者に対して普通抜歯を行う際に,薬剤継続下で抜歯を行うことを提案する.(P35)』
『比較的新しい抗血小板薬であるプラスグレル,チカグレロル単剤投与患者に対して普通抜歯を行う際に,薬剤継続下で抜歯を行うことを提案する.(P36)』
『抗血小板薬 2 剤を併用している患者で普通抜歯を行う際に,薬剤継続下で抜歯を行うことを提案する.(P38)』
『ワルファリン単剤の服用患者において普通抜歯を行う際には,これら薬剤を継続投与下に抜歯することを提案する.(P42)』
『DOAC 単剤による抗凝固薬投与患者に対して普通抜歯を行う際には,これら薬剤を継続投与下に抜歯することを提案する.(P44)』
とちゃんと書かれているのです。

なぜなら、
『抗血小板薬を短期間休薬した場合,血栓・塞栓症が増加する可能性がある』
などとちゃんと理由も書かれています。

唯一ちょっと違うのは
『凝固薬と抗血小板薬の併用療法を行っている患者においても,抗凝固薬と抗血栓薬を継続して抜歯を行い,局所止血で対応することが望ましいと考えられるが,両者の併用では,後出血が重篤になる可能性があり,その害は血栓・塞栓症のリスクより大きくなる可能性があること,また,患者間のリスクにばらつきがあることから,対応可能な医療機関に相談する等の慎重な対応が望まれる.(P48)』
というところでしょうか。
それでも基本的には薬は継続です。

自分の患者さんなんて、がっつりサラサラにしている人なんていませんし、大抵飲んでいるのは昔ながらのやさしめのお薬だったりします。
一部新しいタイプの薬を飲んでいる方もいますが、ほとんどは1剤です。
ですから当然ガイドラインによれば、内服継続したまま処置をしてもらうことになります。

大きな外科手術だとかであれば別ですが、医科においても基本的には出血リスクの少ない小手術の場合は内服継続したままです。
高齢者の抜歯の場合は大抵はすでに歯がぐらぐらしていたりすることがほとんどなのですね。
出血リスクは少ない方です。
ですから同然血液サラサラの薬は継続したままおこなっていただくことになります。

なのにいっつもお手紙がくる。
毎回毎回お返事に、上記ガイドラインのことを説明する羽目になるのです。
いい加減自分で勉強してくれよって思いますよ。

なんならひどいときには、
「麻酔は○○を使う予定ですが可能でしょうか?」
って書いてくる歯科医もします。

知らんがな。

問題が起きたときの責任をすべてこっちにおっつけてこようとするな!
ってプンプンします。
(以前にも書いたけど自分はプンプンとかわいくは怒りません)

だからそんなときは正直に「わかりません」と書いて返事します。

当然初診のときにアレルギー歴は必ずチェックしますが、それ以上のことは自分にだってわかりません。
これまで問題なかったものでも、新たにアレルギーが出る場合だってあるのですから。
神さまじゃないんだから自分に聞くなよって話です。

心配だったらその歯科医からアレルギー専門の先生にコンサルトするか、あるいは入院設備のある大きな病院で歯科処置をするべきです。

ちなみに
「抜歯後に痛み止め使ってもいいか?」
なんて質問もあったりします。

それについても上記ガイドラインに答えが書いてあります。
『血小板薬やワルファリン投与中の患者においては,NSAIDs,COX-2 阻害薬,アセトアミノフェンの投与は最低必要量に留めることが望ましい.長期および大量に投与する場合には,出血性合併症の発生の可能性が高まる可能性があるので,注意深い対処が必要である.』

当然のことしか書いてありません。

というか自分たちだって6年間歯学部で人体のことを学んできたんでしょ?
薬のことも学んでいるのでしょ?
だったら自分たちで少しくらい考えて判断してよ、って思ってしまうのです。

何回も何回も脳梗塞を繰り返していて、がっつり血液サラサラの薬飲んでいるとか、アレルギーでまくりの患者だとかだったらまだわかりますよ。
いつも歯科医から来るお手紙の患者さんは、一般のふつ~の高齢者の方です。

ふつ~にちゃんと止血すれば問題ないような方たちばかりです。

眼科手術ですが、それほど出血リスクがないにもかかわらず昔からの慣習で血液サラサラの薬を中止、その間に脳梗塞の再発をきたしてしまったケースを聞いたことがあります。
出血リスクと、脳心血管系疾患の再発リスク、それを天秤にかけて判断するべきなのです。
当たり前ですけど。
そして特殊な抜歯等でない限りは、止血をしっかり行えば問題ないことが多いのです。
それをわかりやすく説明してくれているのが上記ガイドラインです。

それでも出血が怖いから、血液サラサラの薬を中止したいというなら、患者さんやご家族に同意書を取るべきなのです。
上記ガイドラインにはその同意書のテンプレートまでちゃんと紹介されています(P24)。

でもそこまでしないとできないというのなら、訪問での抜歯は諦めて大きな病院に紹介した方がいいと思うのですけどね。

確かに高齢者の場合、抜歯後の出血で誤嚥・窒息が起きてしまうリスクがあるでしょう。
だけど、止血処置をしっかり行えば問題ないことが多いのです。
ガイドラインにだって繰り返し繰り返し書かれています。
止血処置云々は歯科医の技術です。
術後出血による誤嚥・窒息が心配で、薬継続したままの抜歯はできないというのなら、もう何もできないんじゃないですか?
さっさと他の先生に紹介した方が良いです。

もちろんいろんな意味でハイリスク群は除きます。
それにそんな患者さんの場合は、そもそも自分に聞く話のレベルではなく、やはり最初から入院しての処置という選択肢になるのではないでしょうか?

血液サラサラの休薬のお手紙、本当辟易しますよ。

先日もそんな手紙が送られてきて、上記ガイドラインを紹介し、詳しく説明してさし上げ、それでも中止したいのならご家族に同意書取ってください、と返事しました。
毎回毎回なんで自分が時間かけて説明しなきゃなんないのって思いますよ。
決して特殊なケースじゃありませんからね。
「歯がぐらついてきたから抜歯したい」レベルの処置に対してですよ。

なぜ上記ガイドラインがあるのかというと、自分が聞いたケースを紹介したように、少なからず休薬期間中に血栓・塞栓症が発症してしまうことがあるからなのです。
だからガイドラインができたのです。
なのに「こんなにもか」っていうくらい、休薬したがる歯科医の先生が多いのです。
たまたま休薬期間中に血栓・塞栓症が起きてしまったケースを経験していないからなのかもしれません。
気付いていないだけかもしれないけど。
でも、アンテナ張っていれば、そういうケースを耳にするはずです。

「歯だけ」「出血だけ」しか気にしないんだなぁ~と思ってしまいます。
人間をトータルとしてみていないんだなって。
ある意味自分のことしか考えていないんだなって。

こちらの歯科医院なんて素晴らしいですよ。

抜歯などを行うときに注意を要する内科的薬剤

赤文字ではっきりとこのように書かれています。
『最も重要なことは
当院を受診される前にご自身の判断で上記の薬剤(抗血小板薬、抗凝固薬)を服用中止、休薬されることは、中止による副作用、血栓形成などのリスクがあるためお控えください。』

ちゃんと勉強されているのですね。
HPにわざわざちゃんと書いて説明しているなんて、本当に素晴らしい。
まったく知らない歯科医院ですし、検索してたまたま見つけたところです。

これからの時代、ワクチンの影響もあり、安易に休薬なんかしたら脳梗塞・心筋梗塞を発症してしまうケースが増えるのではないでしょうか。
なんて思ったりもします。

あるいは脳梗塞、心筋梗塞が起きてしまったとき、歯科治療などで血液サラサラの薬を休薬されていなかったか確認することも重要です。

一般的な歯科処置の際に休薬しようとしてくるかこないか、そこも良い歯科医かどうか、勉強している歯科医かどうかの判断材料になるでしょう。

こうしてガイドラインがある以上、安易に休薬することにより血栓塞栓症が起きてしまったら、裁判で負けてしまう可能性が高いのです。
それにもかかわらず中止していいか聞いてくる先生が多いってどういうことよ、って思います。
というか自分で責任取りたくないから聞いてくるんだろうけど。
ずるすぎます。
残念ながらそんな手には乗りません。

出血のリスクは負いたくない、血栓塞栓症が起きたときの責任も取りたくない。
そんな気持ちがみえみえです。
どんだけ卑怯なのでしょうか。
少しもリスク取りたくないのなら歯科医辞めてしまえ。
おっと言い過ぎました。

今度手紙来たら
「休薬により血栓塞栓症が起きたら裁判で負けますよ」
って最後に一文付け加えようかな。
いやみだね。

※ちゃんと勉強熱心な良い歯科医もたくさんおりますのであしからず。

無駄に医療機関の食いものにされないように、自分でできるケアなど役にたちそうな情報を大公開していきます。