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No.766 17年前に、どんなことがありましたっけ?

若者の「気づき」があんなところに、そして、こんなところに発見できる歌の世界。2006年(平成18年)の第20回「現代学生百人一首」(東洋大学)には、全国から60,759首もの応募が寄せられたといいます。
 
その年の入選100句(0、16%)の中で、私が大好きになったのは、
「夢を追う君の姿が輝いてかかとつぶしたくつはき直す」
(埼玉県 高2 女子)
でした。衒いのない素直な歌です。私は、下の句の「気づき」と「行動」に打たれます。「君」が思い人であるなしにかかわらず、懸命に夢を追って無心に励む人の輝きが、怠惰に自堕落に生きている自分の胸に強く迫って来たのでしょう。そして、彼女は決意を形に表すのです。心の証だと自らに言い聞かせるように。
 
行動に移さなければ、本当に気づいたり分かったりしたことにはならないのだと教えられるのです。わかった気分になっていただけの自分の心に「蹴り」が入った瞬間です。
 
2006年の入選句は、中・高生ならではの鋭くて鮮度の良い感性に満ちています。そのいくつかを抄出し、私に思いを述べてみます。的外れだったらごめんなさい。
 
「未来への白地図広げ何描く君の心にわたしはいるのか」
(静岡県 高1 女子)
あれから17年、2人で白地図を塗り替えて?70代の白地図を手にした私です。
 
「ばあちゃんが着ていたパジャマ手にとって毛玉の数ほど思い出あった」
(岩手県 高3 女子)
「毛玉の数ほど思い出がある」というフレーズに涙腺をやられます。心憎い歌姫。
 
「戦争の終わりの証は何ですかイラクの瓦礫に立つ子どもたち」
(茨城県 高2 男子)
そして今、ウクライナの瓦礫の中にたたずむ少年少女がいます。戦犯は大人たち。
 
「『俺はシベリアまで行った』寒い夜には祖父の十八番の英雄譚聞く」
(埼玉県 高3 女子)
「また始まった」の声が聞こえてきそうですが、シベリア抑留からの生還は奇跡!
 
「この夏にコントラバスと友達になった印の指先のマメ」
(埼玉県 高1 女子)
痛みと厳しさを教えてくれた小さな友達、マメな練習で親友の契りを結んだか?
 
「教育の本来の姿いまどこへイジメ未履修途方に暮れる」
(千葉県 高3 男子)
多くの高校が世界史の未履修問題で揺れた年。しわ寄せが生徒に及んだ教育とは?
 
「声、仕草、手、髪、笑顔全部好きちょっと出ている前歯でさえも」
(千葉県 高2 女子)
ここまで惚れられた男は、本望でしょうな。「蓼食う虫」など絶対に言いません!
 
「噛んだガム見つめて想う似ているな僕の青春もう味がない」
(東京都 高3 男子)
「噛み捨てたガムの味」を「青春」と見立てた発想に「ほ」。寧ろ味わいがある。
 
「人間は必ず嘘をつくらしい釣りの後と選挙の前に」
(東京都 高2 男子)
前と後の具体例は「ある!ある!ある!」です。倒置された上の句が刺激的です。
 
「『このままじゃあんたニートになるしかない』母の辞書に『冗談』は無い」
(新潟県 高1 男子)
一見非情なオカンを装った息子への愛の鞭の言葉。わかってくれるのは後でいい。
 
「お母さん最近いつも怒ってる朝のバナナがくさりかけてる」
(岐阜県 高1 女子)
実景とも心象風景とも思われますが、その視点の鋭さに感服。本当に凄い歌です!
 
「甲子園再戦となった決勝戦一人で投げぬくハンカチ王子」
(大阪府 高2 男子)
 早稲田実業・斎藤佑樹投手と駒大苫小牧・田中将大投手の決勝再試合はこの年!


「たたくのは失礼だけど西瓜からおいしい返事いただく夏は」
(長崎県 高3 女子)
音で美味しいスイカを聞き分けられるステキな女子高生は優しい心の持ち主です。
 
自分たちを取り巻く社会や日常を一瞬にして切り取って、その思いを三十一文字の音の世界に流し込んだ若者の歌を読むと、失くした青春のかけらが共鳴するのを覚えます。


※画像は、クリエイター・ますみゆたか/真澄悠貴さんの、タイトル「日記#37 2022-09-18『雨でもラグビー観戦へ』」をかたじけなくしました。夢を追う姿に気迫がみなぎっています。お礼申します。