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No.959 ぎしわじんでん

あれから随分経ってしまいました。
 
惜しげもなく、いじらしさもなく、ためらいの微塵もなく、キッパリと抜けてしまった義歯の治療は、2~3日で済むだろうと高をくくっていました。しかし、私の素人見立ては、砂糖にハチミツをかけた以上に甘く、担当医の所見は、1週間はかかるという厳しいものでした。
 
初日はマスクをつけるなど、顔にも似合わぬ恥じらいを見せた私でした。しかし、二日目にはマスクを外し、なるべく笑わぬよう努力し、鼻から大きく息を漏らして笑いをそらす術を覚えました。三日目ともなると恥じらいも努力も忘れ、ついでに義歯がなくなったことも忘れて呵々大笑、「歌を忘れたカナリヤ」ならぬ「恥を忘れたオジサン」と化しました。
 
あの歌姫・森公美子さんは、公演会の前日に歯が1本抜けたとかで、ミルキー(不二家)を詰めて歌ったとか言う仰天エピソードをお持ちです。

四十過ぎの武骨な男に、ミルキーではこと足るまい、ビガー(広島市、ビガー本舗)だったらどうか?などと心は千々に(?)乱れます。幸い、ビガーのお世話になることなく、1週間後に吾が義歯は、元の鞘(?)におさまりました。これぞ「義歯吾仁伝」。史書ならぬ私書の一席でした。
 
その後のビガーの運命やいかに?何やら、ゆかしく思われました。往年の美男美女に愛されたビガー、そして製作元のビガー本舗は、残念ながら、2000年ごろに廃業したそうです。

オブラートで包まれた牛乳飴の優しさに「ほ」の字の私でありましたが…。