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No.130 若気の至りに耳を傾けてくれた大人

忘れられない言葉があります。
「必ずお前達の時代が来る。その時になって,今の気持ちを後輩に抱かせるなよ!」

まだ二十代の、教員となって駆け出しの頃のことでした。若さにもの言わせ、「情熱さえあれば、不可能なことはない」と信じて励む仲間もいました。「めくら蛇に怖じず」の諺を地で行くほど、元気の良かった青い時代です。

しかし、その熱量のある提案や方策も、酸いも甘いも、人生の方程式もよく知る先輩教員や、ご年配の方々には、「青二才の戯言」と、一蹴されることが少なくありませんでした。臍を噛んだり、業を煮やしたりしながら、別府の同僚宅で酒に勢いを借りての狼藉三昧を何度もしました。さぞや、ご両親は苦笑されていたことでしょう。それでも、不快な顔ひとつされず、母君は手料理を振る舞い、父君は我々が託つ不満に静かに耳を傾け、盃と話に付き合ってくれました。そうして、よく話して聞かせてくれたのが、冒頭の重く味わいのある助言だったのです。

三十年の後、ようやく頭を押さえつけられることのない「我々の時代」がやって来ました。かつての先輩・年配同僚と同じ齢を重ね、「ようやく自分の体温に一番近い生き方」が出来る様になりました。しかし、それは十指に満たぬ数年間でした。その数年間で、我々は友人のお父さんの箴言を果たせたのか、甚だこころもとない思いです。

定年退職後は、後輩たちへの気遣いはなくなりましたが、なかなかに先輩たちの壁は厚いようです。
「70歳で年少組とはまいったな」
とは、偽らざる一面の真理でしょう。年をとっても、年中組、年長組と先はまだまだ長そうです。

誰も、いやでも年を取ります。しかし、年を取らねば分からないこともたくさんあるようです。
「なってみりゃ あの年寄りは 偉かった」
(神奈川県 61歳 男性)
2002年(平成14年)に発表された「第1回シルバー川柳」入選作が、よく物語っています。それでも、変わらずに心の炎を灯し続けられる生き方がしたいと思っています。もう、頭を押さえつけられることもないでしょうから…。