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No.618 たった3行で済まされたお話

数日前のこと、大分空港で成田行きの飛行機への搭乗の時間を夫婦で待っていました。義母の三回忌の供養にお参りするためです。子供や孫たちに再会できる期待もありました。

搭乗予定時間を15分ほど過ぎたあたりで、
「○○○○より大分発成田行き△△△便のご連絡を申し上げます。ただいま機材の整備を行っています。搭乗のご案内までしばらくお待ちください。」
とアナウンスがありました。「よろしくお願いします」の気持ちで聞いていました。

「○○○○より大分発成田行き△△△便のご連絡を申し上げます。ただいま機材の整備を行っています。今少し時間が必要です。ご案内までしばらくお待ちください。」
と再びアナウンスがありました。「あれ?なんかあったのかな?」とは思いましたが、待合室のほかの乗客は特に心配する様子もなく、多くの人々がスマホに夢中です。

「○○○○より再度大分発成田行き△△△便のご連絡を申し上げます。ただいま機材の整備を行っています。お急ぎの皆様には大変ご迷惑をおかけしています。場合によっては欠航ということも考えられます。いましばらくお待ちください。」
と早口でのアナウンスがあり、「あれ?これはただごとではないか?」という気持ちになりました。待合室は、少しずつ不安の表情を浮かべる人が見え始めました。
 
「○○○○より大分発成田行き△△△便のご連絡を申し上げます。お急ぎの皆様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ございません。機材の整備を行いましたが、✕✕時✕✕分出発予定の△△△便は欠航となりました。今後の取り扱いにつきましては、1階カウンターで行います。恐れ入りますが、受付カウンターまでおいでください。なお、当社の規定により払い戻し等の……。」
そのアナウンスは不安からいっきに悲鳴へと変わりました。すでに午後8時40分を過ぎていたと思います。家族連れや会社員や学生らしき人々が、2階の待合室から1階の受付カウンターに向けて手荷物をもってわれ先にと小走りで移動を始めました。

受付カンター前には、30m近い列が出来ました。しかし、不安そうにしながらも列を乱したり大騒ぎしたりすることもなく、粛々と自分の番を待っている日本人の姿がそこにはありました。これからどうしたらよいか、スマホで連絡を取り合ったり、画面をのぞき込んだりしている人が多くいました。

カウンター前に早めに並んでいた人の中には、
「こんな時間に足止めされて、宿泊手配はしてくれるのか?」
「ここまで来たバス代は払ってくれるのか?」
「何があったかの詳しい説明もしないのか?」
「今日の予定がキャンセルになったが、どうしてくれる?」
等々、受付で応対する女性社員に詰め寄ったり、なじったり、カウンターを叩いて憤ってみたりする客もいました。

そんなことをグランドスタッフ(地上勤務職員)にぶつけても、機材の故障では致し方ないことなのに、憤懣やるかたない思いに負けたいっぱしの男たちもいたのです。後ろは、長い列を作って不安げに自分の番を待っている乗客ばかりです。

それぞれの客には、それぞれの予定があり、約束があり、しなければならないこともあったはずです。それが叶わなくなってしまったことについて航空会社は責任の重さをもっと自覚してもらいたいと思いました。「安全」最優先の決断だったに違いありません。「規定」を盾にする以外、すべての客に平等に対処し納得させる方法はないのかもしれませんが、後味の悪さを覚えなかった人は一人もいないと思います。大事の時に何ができるか、航空会社が試されてもいる時でもあるのです。

私たち夫婦は、車で1時間半をかけて自宅に舞い戻りました。大分空港には軽い夕食のサンドイッチを食べに行ったような次第です。それでも、飛び立つ前のことだったわけですから、考えようによっては助かったのかもしれません。
 
人から聞いた話の中には、
○搭乗したにもかかわらず離陸できず、乗客はみな降ろされた。
○飛行機は飛んだが、事故発生で目的外の空港に緊急着陸した。
○目的地の空港が視界不良のため、飛び立った空港にもどった。
等がありました。noteの読者にも特異な体験をされた方がおられるかもしれません。幸・不幸は、人によっても、場合によっても、時によっても感じ方が違うのかもしれませんが、先日の私たち夫婦の体験は、「不幸」というよりも「安全」を考えさせられるものでした。
 
翌日の新聞には、この時のことがたった3行で書かれていました。
「17日、大分発成田行き○○
○○△△△便が欠航した。機材
整備が必要になったため。」