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No.517  アユの季節がやって来ます

大分県の渓流での鮎漁の解禁は、5月下旬~6月上旬にかけてでしょうか。

「あゆ」の呼び名の語源は、いくつか説があるようですが、古語には、動詞の「あゆ」(落ゆ)があり、「落ちる、流れ下る」などの意味があります。春になると川を上り、秋になると川を下るので「あゆ」と呼ばれたのかも知れません。
 
また、「鮎」の字を当てるようになったのは、神功皇后がこの「魚」を釣って朝鮮出兵の可否を「占」ったことからだそうで、『日本書紀』にその話が書かれているそうです。

もっとも、『万葉集』の中にある17例の「あゆ」を確認したところ「鮎」と表記されたのは2例で、「阿由」5例、「年魚」4例、「和可由(若鮎)」3例、「安由」2例、「氷魚(鮎の稚魚)」1例でした。

「アユ」を「年魚」と書くのは、1年の寿命だからと言います。中国で「鮎」は「鯰」の意味だそうで、アユは「香魚」と書くようです。日本でも「香魚」と書くことがあります。餌として食べる藻や河川渓流の状態にもよるのでしょうが、「胡瓜」や「西瓜」や「若草」のような匂いがするからだと言われています。

もうずいぶん前のことですが、魚釣りの大好きな生徒がクラスにいました。ジョーク好きで人を笑わせ、負けん気が強くて、良くしゃべります。ふっくらとした色白の男でしたが、明るくて、打てば響く見た目とは異なり、先天性の持病があり、激しい運動は禁物です。唇にチアノーゼの現象が出て息苦しくなるらしいのです。

その彼が、アユ漁が解禁になるとよく渓流釣りに出かけ、釣果のアユを持参してくれました。入学してから、卒業するまでそれは続きました。しかし、大学1年目の冬を前にして、彼は、生涯苦しめられた持病が悪化して急逝しました。胸が詰まり、涙が止まりませんでした。

体調の思わしくないときでも、人の為だと思えば喜んで無理をしてしまう彼を、多くの学友が慕い、敬愛しました。そんな人柄が、人間だけでなく神様からも気に入られてしまったのだと思われてなりません。香りやかなこの鮎を前にすると、彼の「明るい笑顔」が思い浮かびます。それをこそ「遺言」としたかのように。

そろそろ、アユの季節がやって来ます。彼岸のたもとで、今ごろ彼は釣り糸を垂れていることでしょうか。