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No.1307 分身の術

それは、唐突に始まりました。
♪もう一度さ 声を聴かせてよ
 めくれないままでいる
 夏の日のカレンダー
 
TBS系火曜ドラマ『Eye Love You』の主題歌「幾億光年」(Omoinotake)のビートのきいた曲に乗って現れたのは、妹の秘芸(?)、渾身の「棒人形ダンス」でした。トップ画像は、その1葉です。
 
昨日は帰省し、父の50回忌(54歳没)・母の11回忌(85歳没)・義姉の3回忌(68歳没)の「偲ぶ会」を行いました。兄宅に、私夫婦、妹夫婦の5人だけが集う内輪の会でしたが、亡き人々に思いを馳せ、食事しながらの6時間、あれこれを親しく語り合いました。

そんな中、不意にいなくなったと思った妹が、いきなり隣部屋から闖入(乱入?)して「棒人形ダンス」のご開陳です。亡き父・母・義姉の遺影を仮面にして躍るその姿は、まさに「分身ダンス」の趣です。
 
胸に(腹に?)燦然と輝く番号は、生きておれば今年何歳になるかを示しています。絶対に不可能な妖艶な腰つき、軽快すぎる跳躍、そこまでやるかというあられもない姿態等々、旺盛な妹のサービス精神が爆発し、舞台も狭しと踊りまくる座敷の間は、阿鼻叫喚、いや、魑魅魍魎、いやいや、抱腹絶倒の別世界と化しました。
 
興奮のるつぼの5分が終わると、妹が、
「今から、握手会をしましょう!」
と皆に声を掛けました。鼻のてっぺんが赤くなっていた私は、亡き姉や母に、それこそローマの休日でアメリカ人記者が王女様にしたような握手をしました。
 
ところが、兄は違いました。父親に体型まで似せようと無理して体重を増やしたという妹に抱擁して、懐かしい父を思い出し感謝していました。また、
「よー似ちょるわー、そっくりじゃ!」
と兄嫁を彷彿とするその人形に、目も心も奪われていました。
 
義弟は、妻の演技にほとほと感心した(あっけにとられた?)ようにその手を握りました。奥さんは「田舎のプレスリー」級のエンターテイナーです。
 
そして、うちのカミさんは、思い出の堰が切れたように感極まって、妹に抱きついたまま泣きました。今は亡き3人を思い、妹の配慮に深く心打たれての事だったと思います。
 
妹が一人で考えた「大きな感動企画」でした。
「思うだけなら猿でも出来る!」
と言われますが、猿にもなれなかった私は、妹の行動力に本当に頭が下がりました。そこには、「愛」がありました。
 
父が亡くなった1975年9月は、妹が県外の短期大学に入学して半年後のことでした。ところが、妹はさっさと大学を辞めて故郷に帰り、残された母、両祖父母の為に生活を共にします。そして、数年間をかけて保母の資格を取得し、念願の保育士となった努力の人です。
 
そんな妹の人となりは、幾つになっても変わりません。私は、また一つ、妹の大きさに気付かされ、舌を巻いた次第です。泣いて笑って、笑って泣いた「偲ぶ会」は、「感動至極の偲ぶ会」となりました。