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No.1276 あじさい(吾路幸)

紫陽花が、梅雨に濡れています。
 
『万葉集』には4500余首の歌が収められていますが、「あじさい」は僅かに2例だけだそうです。その巻4・773番は、
「事不問 木尚味狭藍 諸弟等之 練乃村戸二 所詐来」
「言問はぬ 木すらあぢさゐ 諸弟(もろと)らが 練りのむらとに 詐(あざむ)かれけり」
(言葉を話さない木でさえも、アジサイのように七重にも八重にも仰々しく咲き、色の変わる花がある。あの諸弟〈もろと〉めの、ころころ変わる練達の口車に、うまうまと騙されてしまったよ。)
 
どうも、「あじさい」は、古来より花の色がよく変わる事から「七変草」などと呼ばれ、「心変わりする信用できない人」の例えとして詠まれているようです。大伴家持が、坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)に贈った歌5首(770番~774番)の中の1首です。

一方、『万葉集』巻20・4448番の歌には、
「安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都与尓乎 伊麻世和我勢故 美都々思努波牟
    右一首、左大臣寄味狭藍花詠也」
「あぢさゐの 八重咲くごとく 八つ代にを いませ我が背子 見つつ偲はむ
(紫陽花が八重に咲くように、八代も長くお元気であれ君よ。見ては懐かしもう。)
    右の一首は、左大臣が紫陽花の花にことよせて詠んだものである」
とありました。この歌意は、「あじさいの花が八重に咲くように、いついつまでも栄えてください。」という祝意や祈りを表しているように思います。

「花言葉」というのは明治以降に入ってきた西洋の概念ではないかと思いますが、アジサイの花言葉は、色によって異なるそうです。一般的に「七変化」のイメージから、「冷淡」「無情」「浮気」(心変わり)などの印象が持たれているようです。

中には、「辛抱強い愛」の花言葉もあります。江戸時代にドイツ人医師・シーボルトが愛したものの日本に残した日本人女性「お滝さん」(シーボルトが帰国して多くの日本の植物を紹介した本の中に紫陽花〈Hydrangea otaksa〉がありました。)の名をアジサイにあてたのだといいます。そのような悲恋を踏まえた、新たな花言葉もあるのですね。

このほか、花が寄り集まっていることから「家族団らん」の意味も含まれるようですが、私は、紫陽花と言えば「心変わり」と浮き名を流し続けている紫陽花の花言葉に、万葉時代人も感じ取っていた「七重八重に栄え祝う」意味を強調したいと思います。その文字も「吾路幸」(あじさい)であれと祈りを込めてみたりしています。お笑い下さい。


※画像は、クリエイター・キータン🦋さんの、タイトル「あじさい :: 芦花公園」の1葉をかたじけなくしました。お礼申し上げます。