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私は何者か、342


どきなさい。と言われても、どちらへも身を交わせないのである。ここは、綱渡りの綱の上なのだから。そんなふうに過ごす人生をわたしは生きていない。戦わずして眺める側に回り、そんな哀しい場面などに居合わせたくない。そう思っているのである。誰、あゝ、指南役かい。さもありなん風の。もういいんだ。猫のモモタローでさえ、素通り。肉球だって汚させない。ここから先は立ち入り禁止です。先を競う。そんなの噴水に任せておけばいい。登り、落ち、また、登る。その先を考えているのか否か。噴水ならば夏の季語。じょわじょわ、ぼよぼよ、びゆんと湧き上がり、ストンと落ちる。夢だった空にも届かず、もちろんあの真昼の月に触れることもできず、志半ばで力を抜く。何かに似ている。徒労だとか。卑怯だとか。いや、彼らはすぐに気を取り直し、湧き上がる。何度でも。誰かがスイッチを切るまでは。


抱くことの抱かれるほどの力を込めて、それで、一体なんだって。


帰路、どこまでも続くお屋敷の長い塀を伝うように歩き、その足跡は消えてゆく。


昨日の月を見たか。


不思議だ。昨日の月が未だ空にある。


昨日だ、今日だと、人の都合。


わたしは何者か。


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