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私は何者か、355


ありったけの、へっ、そんだけしかないのに。けど。ありったけなの。働くことに力を注ぐ。お疲れっ、の挨拶に、手なんかふりそうもない課長が、ミラー効果でその手を挙げて、私へと手をふる。一日働いた最後に、ご褒美やん。人の内面を見た気がして、嬉しい。
金どうこうより、働くことが、働けることが嬉しい。残高がマシマシになるわけでなく。でも、ね、金は、あるなかで、暮らすところがいいんだよ。洋服ダンスのなかには、ブランドの服がワンサカよ。和ダンスの中にも、袖を通したこともない着物がわんさかよ。捨てられないのは、自身の、なんだろ、ステータス。か。そんなの古いよと、だけど、いまや、古民家全盛。ノスタルジーとか、スロウモードを追い越すほどの懐古趣味。懐古ではなく、彼らには、まったく新しいものであるのだから、詐欺師まがいのルネッサンス。

それより、冷えたビールが美味しい。


彼はソファに抱かれ、抱かれて、うたた寝を貪り、わたしは懐古の蚕の繭のなか。一日を回顧し、開高健は古くて新しい。

井伏先生。開高先生。

闇は輝き、山椒魚は未だその水のなか。


幸せか不幸せかは人に決めてもらうものではない。


人それぞれの持分に、光が当たり、闇をくぐり抜け、残りの、僅かの、その部分が真の持分。


戻らぬものは、失ったものではなく、最初からなかったものなのである。


シンプルに生きる。


本望。


わたしは何者か。


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