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私は何者か、315


あなたの寝息を聞いて、その一定のリズムを安心の素材として、眠りおちる。眠り落ちたとしても、その指先が我の指先を捉えたまま、鼓動の循環、呼び続ける呼吸の連動。故にこれはメビウスの輪であろうや。黄泉の国でもあるまいに、この、ふあふあした不安定なまでの安息に、眠ってなどいられまいにと、寝返りを打てば互いの背中と腹がモゾモゾと、寒いの、いや、寂しいの、意味もなく或いは意味深にその腕に力をこめて抱く。力いっぱい抱くとは、まこと難しい限りである。馬鹿力など無用。骨なしのようで、尖った肩甲骨。肋を、何、鍵盤にして、バッハの平均律を弾くとか。前には、背骨を辿って、カノンを奏でたであろう。今まで生きてきて、こんなことはなかったのである。セロリをガブリと噛んだんだって。その歯切れに脳が目覚める。お家に帰って、カーテンを閉め、灯りをつける。束の間のたったひとりのパラダイス。どんなデバイス。どんなスパイス。黒胡椒に違いない。風味とは、触れないし、見ることはできないし、素晴らしくも、不自由で、紛れもない、感覚であろう。愛が、あらゆることよりも真であるなら、それはそれで、真実であるかも知れぬ。地位や名誉や金。そして、愛。それよりも、の、真。自身のなかの問いかけを真と言おうか。問い続けること。生きること。移ろいながら、春夏秋冬。また、春よ。若い草の香りを纏い、眠ろう。その指先に誰の指先か。


ほら、じっとして。


背中の文字は鱗。


青い球を隠し持って。


龍の髭か。



私は、黒曜石の海岸にいる。


そして、眠りつづける。


私は何者か。



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