数学における失敗事例集

本文章は「ゆる言語学ラジオ非公式 Advent Calendar 2022」22日目の記事です。

21日目の記事はこちら

TL; DR

タイトルは釣り
反例はいいぞ

導入

象鼻回で取り上げられた『象は鼻が長い』の著者、三上章のエピソードや、ゆるコンのチューリング回をうけ、数学に多少なりとも興味を持たれた方もいるのではないでしょうか。
さてそんな数学書ですが、硬い本にありがちな以下の要素が難点です。

  • 拾い読みができない

  • うまくいった話がメインなのでどうしても退屈になりがち

今回は上記二点の要素が少ない『Counterexamples in Analysis』という本を紹介したいと思います。

本の特徴

タイトルの通りただひたすら解析における反例をあげている本です。
こと数学書においてはよく分からん性質を定義された後、とくに掘り下げられることもなく議論に用いられるため「この仮定(性質)がなんで必要なのか分からん」になりがちです。
そういった「よく分からん仮定」の大切さを実感できる本になっています。
体系的に理論を取り扱う類の本ではないので、辞書や国語便覧のように適当に開いたページを見て楽しむ、といったことも可能になっています。
また、言うなればこれは「失敗事例集」なので「昔の人ってこういうのに苦労したんだなあ」と想像して楽しむこともできるかもしれません。
以下ではこの本で紹介されている反例のほんの一部を紹介します。

反例の例

ここでは有名なDirichlet関数をいじって色んな反例を得られる様子を見ていきたいと思います。
証明は省きます。どうしても気になるという方は・・・要望が多ければ何かしら考えます・・・。
以下、特に断りがなかれば閉区間$${[0,1]}$$上で考えていきます。また$${\mathbb{R}}$$は実数体、$${\mathbb{Q}}$$を有理数体、$${\mathbb{R} \setminus \mathbb{Q}}$$を無理数の集合としておきます。

例0

そもそもDirichlet関数とは以下のような「至る所不連続な関数」です。


$$
D(x) = \begin{cases}
1 & (x \in \mathbb{Q}) \\
0 & (x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q})
\end{cases}
$$


「言うても不連続な点なんてまばらにしかないでしょ」という甘えに対する反例になっています。

例1

Dirichlet関数を以下のようにちょっと修正してあげます。


$$
D(x) = \begin{cases}
1 & (x \in \mathbb{Q}) \\
-1 & (x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q})
\end{cases}
$$

この関数の絶対値を考えてみると恒等的に1をとる関数となり、連続関数でありますが元の関数は至る所不連続になっています。
1変数の微積本によく載ってる「連続な関数は絶対値をとっても連続」という主張の逆が成立しない例になっています。

例2

次にDirichlet関数をこんな風にいじってみましょう


$$
D(x) = \begin{cases}
n & (x \text{を既約分数}m/n\text{とあらわした時の} n>0) \\
0 & (x \in \mathbb{R} \setminus \mathbb{Q})
\end{cases}
$$


するとこの関数は「定義域の全ての点で有限の値であるにも関わらず、任意の部分区間で非有界な関数」になっています。
つまり「どれだけ狭い区間で考えても常に非常に大きな値をとることができる」関数になっています。
例えば$${x=1/2}$$の点で2をとりますがこの点の非常に近くにある99/199では199と大きい値をとります。分母分子を選べばもっと極端な値もとれます。
こちらの動画でどのような関数か見られます。

むすび

本記事で紹介した『Counterexamples in Analysis』はamazonで販売されており、紙版は2700円前後、kindle版であれば1300円で購入できるため興味を持たれた方はぜひ読んでみてください。
ちなみに上記タイトルで検索するとpdfも発見できます。
また似た系統の本として『ヘンテコ関数雑記帳』もオススメです。特にこちらは日本語ですので「英語はちょっと・・・」という方でも安心です。
タイトルの通りヘンテコなものを集めているので「何らかの反例になるような関数」のみならず「普通の関数ではあるがちょっと面白いもの」も紹介されています。

以下amazonリンク
アフィではないのでご安心ください。


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