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晩御飯にフレンチトーストだって、いいじゃない

いかに忙しかろうと、料理だけはなんとか続けていきたい。そんなことを考えるようになっているとは、大学に入る前の自分はきっと考えもしなかっただろう。でも今は、切実にそう思うのだ。

どれだけ手抜きでもいい。シンプルでも、それなりに美味しければ、それでいい。朝は味噌汁と、何か白飯かパンがあって、ちょっとしたお供があって、それで十分。とにかく、ちょっとの時間でもいいからキッチンという場所に立つのが、僕は大事なのではないのかなと思う。勉強や就活に追われているのならなおさらで、キッチンに立って現実を忘れる時間がないと、息苦しくて死んでしまいそうになる時がある。留学中も度々そのようなことがあった。だから、料理だけはしようと努めた。生きる現実に、苦しめられて死にそうになってしまうだけ。キッチンは、それに苦しむ人間を助けてくれる。

なんだか、生身に戻れるような気がするのだ。本当に生きるために必要なことをしているからだろうか。

僕は今別に苦しいわけではない。けれど、キッチンに立つことを忘れると苦しくなってしまいそうになるから、キッチンに立つ。料理がとても上手なわけではないけれど、キッチンに立つ。そんな僕の今日の晩御飯は、フレンチトースト。夜ご飯にフレンチトーストかよと、そんな声も上がりそうなものである。まあ気分的には確かに日曜の朝に食べたらとても美味しい料理ではあることは否定しないが、食パンを一気に処分したい気持ちが先行したのならば、話は別だ。

卵と牛乳と砂糖と少しの塩。
これらをちゃぽちゃぽとテンポよく箸でかき混ぜる。いい感じになったら、パンをちぎる。誰か人に食べてもらうわけではない。だから大雑把にパンを折って、ちぎる。賞味期限は2月1日のものだった。でもカビの気配はないし、匂いも問題ない。僕は人間の嗅覚とお腹を信用している。だから食べたとしても大丈夫であろうし、僕のお腹が視覚で捉えきれない規模のカビなんかに負けるはずがない。だいたいのものは熱すれば、こっちの勝ちだ。そんでもって卵で包むから、むしろ圧勝である。

買ったばかりの鍋を、IHにかける。油は引かずとも焦げはつかぬだろうが、少しばかり心配なのでサラダ油を少量垂らす。本当はオリーブオイルがいいのだが、日本のオリーブオイルはあまりにも高い。ヨーロッパ生活を経験してしまうとなおさらそう感じて、手が出ない。だいたい4.5倍くらいの値段だ。あれあれ、向こうでの生活が恋しくなってくる。

そんなことを考えるうちに甘い香りがしてくるではないか。ひっくり返してみるとこんがりといい焼け色がパンについている。これこれ。この色と香りと、焦げ具合。確かにその三拍子は寝起きの五感には優しく感じられるであろう。きっと今度の日曜日は、フレンチトーストを作る。となれば、今日の晩御飯のフレンチトーストは、練習だ。

兎にも角にも、できたてのフレンチトーストは何にも優って素敵なのだ。鮮やかな黄色、甘い香り、ソフトな食感。あのいつもは残してしまいたくなるパンの耳だって、不思議と美味しくなってしまう。おかげで、耳をいつも先に食べてしまう派の僕も、フレンチトーストでは最後に耳を食べる。そりゃパンも、本望だろうよ。

***

あー美味しかった、と背伸びをしたら、現実に戻る。でも食べる前と後では、圧倒的に気分が違うはず。料理をして美味しく食べたら、やる気が出てくる。同時に眠気も襲ってくるかもしれないけれど、そこはなんとか勝たねばならぬところ。

だから何ってわけじゃないんだけどさ。

要するに、フレンチトーストが美味しかったのよ。


今度はちょっと贅沢して、バターでも乗せましょうかね。

2020.2.6
おけいこさん


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