12/21のこと

12月17日の昼だった。バンドメンバーの明利さんから、思いがけない連絡が届いた。

「カマラからさんからDMをいただきました」

4日後と迫った初の企画ライブ『白亜の行進』に出演予定だったバンドのメンバーがインフルエンザにかかり、キャンセルとなってひと枠空いてしまったのだという。

その日はスタジオで練習予定だったので、譫言メンバーの都合がつくことはわかっていた。とはいえ急な話で、忘年会ラッシュの只中でスケジュールにも余裕がない。はい出ましょう、と即答できるようなオファーではなかった。

それでも僕は、出てもいいんじゃないかと主張した。困っているであろうカマラが僕らを頼ってくれたことは素直にうれしく、助けてあげたかった。吉住は仕事やCHACCAに提出する資料の期限の問題から、弱気だった。翌日、僕は「明利さんに来た連絡なので、最終的には明利さんに判断してほしい」と言い、明利さんは出てあげたいと言った。僕は「出ましょう」と結論を下し、メンバー二人も同意した。こうして本番3日前に、譫言の4回目となるライブの出演が正式に決まった。

CHACCAに関しては、僕がメンバープロフィール以外の内容をすべて考え、吉住が多忙な中でデザインを仕上げてくれた。吉住は疲労困憊だったことと思う。一方、僕は連日連夜の飲み会・忘年会でコンディションを整えるのが難しいため、セットリストから加害者エレジーを外して対応した(メンバーが同意してくれて助かった)が、ライブの前日にとうとう体が限界を迎えた。その日は伽古屋圭市さんのYouTube「さっかとーく」の収録だったのだが、寝不足の状態でたくさんしゃべって歌も歌ったら、最後のほうで喉に違和感が出てきてしまったのだ。不安を抱えながら、ライブ当日を迎えることになる。

21日の朝、しっかり睡眠をとって起きてみると、体調はいくらか回復しており、喉の違和感も消えてはいたものの、万全とは言いがたい状態だった。準備を済ませたところでまたも眠気に襲われ(ここで眠気が出ること自体、体調がよくなかった証拠である)、ベッドで二度寝をしていると、明利さんから連絡が入った。

39℃の高熱が出て、内科に行ってきたのだという。

弱り目に祟り目とはこのことだ。検査の結果、インフルエンザではなかったらしいが、それでもライブができる状態とはとうてい思えない。

僕は明利さんに休んだほうがいいと伝えた。吉住が明利さん抜きでアコースティック編成でライブをすることを提案した。僕はそれもありかと思い、家を出るギリギリまでエレキギターとエレアコ(前日の収録で故障が発覚したが、それでもマイクで音を拾えばいけるだろうと考えた)のどちらを持っていくか迷ったが、結局エレキを持ち、前日違和感のあった喉をケアするため潤いマスクをつけて家を出た。明利さんは、解熱剤が効いているので何としてもライブには出たいと言う。いつでも引き返していいと伝えたが結局、藤沢駅の近くのスタジオでマスクをつけた明利さんと合流した。

本番前の1時間の練習で、僕は前回のライブ同様しっかり歌った。本調子とは言いがたかったが、それなりに声は出た。それから歩いて数分のライブ会場、湘南bitへ。カマラと約1か月ぶりの再会を果たした。

リハーサルは少々のトラブルもあったが無事に終了、とりあえず演奏面で不安はなかった。その後、僕と吉住は近くのそば屋で腹を満たし(とてもおいしかった)、明利さんは僕らに気を遣って距離を置きつつ、物販に必要なものを探しにいってくれた。それからライブハウスに戻って顔合わせ。これも前回同様で、出演者全員でいいイベントにするんだという空気が満ちた。

17時に開演を迎えた。トップバッターはKey Silhouette。出番を控えていたためほとんど楽屋からしか聴けなかったが、シティポップ風のおしゃれな楽曲で、センスが光っていた。MCのゆるさは譫言と似たところもあるかもしれない。

2番目が僕ら譫言だった。1曲め、『リバース』。10月のライブでも披露した曲だ。加害者エレジーの高音を嫌った僕が代わりにセットリストに入れた曲だが、結果的にイントロのドラムは恐竜の足音を連想させ、イベントにぴったりだったのではないかと思う。前回は出だしでフレットを見失うというミスを犯したが、最近はライブにも慣れてきたこともあり、落ち着いて演奏できたのではないか。DVDで振り返ると、曲の序盤はしっかり歌えているが、終盤でかなり声がよれている。間違いなく、よくはなってきているのだが、まだライブの序盤に歌いにくさを感じる癖が抜けない。体力を温存したいという気持ちから、ビビりながら歌っているため、声が細く、よれるのだ。課題である。

2曲目、『ミルフィーユ』。映像ではこの曲がもっとも出来が悪かった。冒頭から簡単なアルペジオをミスり、Aメロの歌声も不安定である。さらにCメロ、ハイトーンになる部分ではかなり声が弱弱しい。この歌い方ではいけなかったのだ、と反省した。余談だが、これを書いている今日、ボイトレでこの曲の歌い方を先生とともにしっかり見直した。

MCに差し掛かり、ようやく一息。もともと27日のライブを意識した25分用のセットリストだったため、30分の持ち時間に合わせるべくたっぷりMCの時間を取ることにする。スマホで時間を確認しつつ、バンド紹介やメンバー紹介、ピンチヒッター出演の経緯などを話した。最近はこのMCの時間を過ぎると、喉から緊張が取れるという実感がある。

3曲目、『フラッシュ』。1月の初ライブ以来の披露となる、たった3分しかないが個人的にはひときわかっこいいと思っている曲だ。実は初ライブのとき、映像をチェックしてもっともショックを受けたのがこのフラッシュだった。サビの音程がまったく取れておらず、声もヘロヘロだった。反省した僕は再びフラッシュをセットリストに入れるにあたり、歌い方を根本から見直した。これが功を奏した。ほかの曲よりBPMの遅いこの曲で、イントロがそろわなかった点は反省すべきだが、映像を確認すると歌声は全体的に5曲の中でもっともしっかりしていた。これは大きな自信になった。

4曲目、『タイムライン』。初ライブから必ず演奏しているこの曲が、会場に来てくれた友人によればもっともうまく聞こえたという。映像ではサビの歌い方がかなりよくなっているように感じるものの、Aメロの不安定さは気になる。

再びMC。ライブの告知と物販の紹介をしたが、手元のスマホでは意外と時間がないことに気づく。必要なことをしゃべって、最後の曲へ。

5曲目、『ソフィー』。これも初ライブから欠かさず演奏している曲だ。最後の曲という解放感から、ややテンションが上がりすぎて声がうわずったきらいがある。まあそれも演出のひとつと言えるかもしれないが、もう少し安定感のある歌声をキープできるようにしたい。

終わってみると、時刻はぴったり予定時刻の18時15分を指していた。いつも書いている気がするが、あっという間の30分間だった。前回はあった大きな失敗もなく、これまでで一番落ち着いて演奏できたと言え、何より楽しかった。まだまだ満足はできないが、場慣れと成長を感じるステージとなった。

ライブは続く。3番手はTREMORO HOUSE。とてもよかった。さわやかで甘いが、どこかに切なさを感じさせるメロディ。洗練されたアレンジとサウンド。ハモリもきれいで申し分なかった。彼らはじきにもっと大物になると思う。

4番手、トワハルズ。とても楽しいライブだった。ベーシストのマイクの位置、パン食い競争のよう。曲のタイトルも『君に似たAV女優を見つけた』『おっぱいセーブザワールド』など、笑ってしまう。CDが売り切れて買えなかったので、いつか配信などで曲を聴けたらうれしい。

5番手、My Lonesome Stereo。いい意味で、若さを感じた。シンセありミクスチャー要素ありで、最新の音楽という印象。ボーカルの発声も[ALEXANDROS]やONE OK ROCKあたりに影響を受けているのではないかという気がした。TREMORO HOUSE同様に彼らもドラマーが女性で、増えているのかな、と思う。

そしてトリ……の前に、前半の転換ではカマラのメンバーがひとりずつ、サブステージと題して弾き語りをおこなった。譫言の出番の前後でお一方ずつ歌ったため、僕がちゃんと聴けたのはドラムのアイミさんだけだったが……メンバー全員が自作曲で弾き語りをするって、すごくない? そんなバンド、初めて見たよ。アイミさん、声がとてもきれいで、ボーカルでも全然やっていけるじゃんと思ってびっくりした。実際に弾き語り活動もたまにしているらしい。何とも器用なバンドである。ちなみに譫言メンバーは三人とも担当楽器しか弾けない(厳密にいえば吉住はほかにもいろいろできるが、弦楽器が弾けない)。

そのカマラが、いよいよトリとして登場する。11月のライブでは自分たちの出番の直前でちゃんと演奏を聴くことができず、今回ようやく最後まで聴けたのだが、あらためていいバンドだな、と思った。結成からまだ半年も経っておらず、ベースのミアさんは9月に加入したばかり、しかもそれがベース初体験だったというのに、堂々としたものである。客席を楽しませる余裕もあり、いつだってガチガチの譫言とは大違いだ(と言ったら吉住に、「おまえの作る曲のテンポが速すぎるせいだ」と責められた)。

曲にもしっかり個性があるし、メンバーが楽しそうな印象は前回から変わらず。途中のクイズなども楽しませてもらった。客の入りもよくて、ますます今後の活躍を感じさせるステージだった。最後に記念写真を撮って、企画ライブがすべて終了となる。

物販や打ち上げの時間はほかのバンドと話しながら過ごした。前日の不調も何のその、ビールやジントニックを飲み、乾杯でイベントの成功を祝う。とにかくみんな若くて、年齢が一回りも違うことにあらためてショックを受ける。若者に混じって僕らよくやってるよな……となぐさめる。TREMORO HOUSEのソングライターでもあるというボーカルがはたちだっていうから驚いた。早熟だ、と思う。はたちには見えなかったのだが。

カマラのカアネル桜さんからは「立っているだけでかっこよかった」とお褒めいただいた。バンドって華があることも大事だから、僕がかっこよく見えたのであれば何よりである。ミアさんは「MCのゆるい感じがいい」と言ってくれた。あのグダグダMCを褒められたのは初めてである。

湘南bitの神田さんとも少しお話しして、僕らの音楽性について「好きなジャンル」と言っていただいた。ご自身もバンドをされているそうで、共演の話もした。初の神奈川県ライブだったが、こういう出会いもうれしい。多少無理してでも出演を決意し、足を延ばした甲斐があった。

出演キャンセルとなった壁。のメンバーともお話しした。無料のCDをいただいたので、またどこかでお会いできれば、共演できればと思う。

前回の町田とはあべこべに、僕と明利さんはその日のうちに帰らなければならず、吉住は近くのホテルをとっていた。清算を終えて撤収し、近くのやきとん屋に吉住と二人で入る。ライブを終えた充実感で楽しく飲み食いした。僕は終電の一本前の電車に滑り込みで間に合い、藤沢をあとにした。

懸念はあったが、終わってみるととても楽しい一日だった。カマラとはいずれまた共演する機会があると思うので、そちらも楽しみだ。ほかのバンドともぜひまた共演したい。自分たちの成長も感じることができ、あらためてライブ活動のすばらしさを実感した。ご来場いただいたみなさま、共演者のみなさま、スタッフのみなさま、本当にありがとうございました。

次は12/27、年内ラストライブだ。次のライブを全然組めなかった今年の前半には、まさか10月から12月にかけて4本(弾き語りも含めれば5本)もライブに出られるとは想像だにしなかった。27日はさらにいい演奏をして、いい1日を過ごして2019年をしめくくりたい。どうぞよろしくお願いします。

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