タルトの愛媛探検記 : エヒメは遠くて近い

 3人は地の国より船で海を渡り、緑の国へと入っていた。今回は曼珠商会の仕事としてではなく、アザミとシジカのエヒメ観光となる。とは言うものの、緑の国にエヒメという地名はない。タルトが鬼っ子姉妹を連れてきたのは、緑の国の西方にある聖地であった。
 タルト「お嬢様方、ここがエヒメへとつながる聖地になります。ただ、訳あってここから入口へは急ぎ走っていきたいのです。」
 アザミ「あら?何か意味あり気な物言いですが、理由を聞いてもよろしいかしら?」
 タルト「はい、実はここに来る度に毎度背筋が凍る思いをしておりまして、私だけなら構わないのですが、お二人を巻き添えにしてはいけないと思い...」
 そうタルトが説明し始めた時、三人は得体の知れないものが頭上を飛んでいるのが見えた。
 タルト「まずい!お嬢様方、説明はあとでします。まずは走って着いてきてください!」
 ???「タルト〜〜、今日の供物を早く出しておくんなんし〜。」
 シジカ「な、なんじゃ、化け物が出たのか!?」
 三人は何者かの声を聞き、必死になってその場を立ち去った。振り返ってはいけない。振り返れば奴がいる。各々が走りながら、同じことを考えている時点で、謎の声が何者なのかは分かっているようであった。

 タルト「はぁ、はぁ、はぁ、お嬢様方、こちらです!ここを抜ければエヒメです!」
 シジカ「早く、早く連れていくのです!」
 アザミ「も、もうダメ、これ以上は無理ですわ!」
 タルトは即座にアザミを荷車に乗せ、一目散に小さな鳥居をくぐって行った。
 ???「!?どこへ消えた!?タルト〜〜」


 タルト「着きました...無事に...ふ〜...」
 アザミ「こ、ここが、はぁはぁ、エヒメなのですね。」
 シジカ「ぜ〜ぜ〜、はぁはぁ、タルト!み、水を。」
 タルト「はい、どうぞ。ここまで来れば安心です。一休みしましょう。」
 タルトは荷物の中から竹でできた筒を取り出し、二人に渡すと辺りを見渡し何かを探しているようであった。
 タルト「あ、いましたよ。お嬢様方、ほら、あそこに宮川早生を作っている農家さんが見えます。」
 タルトはそう言うと、川向かいの倉庫にいる人物を指さした。農家の手には、籠に盛られた宮川早生温州みかん。ちょうど倉庫に入る後ろ姿を、鬼っ子姉妹の目でも確認できた。

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