note conte 『Death In Yard』
店員 「1682円になります、お支払いは?」
男 「現金で」
仕事帰り。
男はコンビニで夜食と晩酌用の酒を買い込み、車に戻ろうとしていた。
すると、突然
「ドンっ!」
鈍い音と重たい痛みで意識を失う男。
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どのくらい経ったのだろう。
瞼は開くが眩しくてピントが合わず目を細める男。
周りを見渡すと、
白い床。
白い壁。
白い天井。
八畳くらいの真っ白い部屋だった。
その真ん中でゆっくりと体を起こす男。
何が起きたのか全くわからない。
男 「ここは…どこだ?なんだこの部屋?」
手足は自由だが、首には冷たく無機質なアルミのような金属の首輪が付けられている。
男 「おい!なんだよこれ!誰か!聞こえるか!」
速くなる鼓動の音しかない室内。
すると、どこからともなく声が聞こえてきた。
謎男 「ようやく目覚めたようだな」
声はおそらく加工されている。
男 「誰だお前は!」
謎男 「君に質問する権利はない」
男 「え…」
謎男 「これから君にはゲームに参加してもらう」
男 「ゲーム?」
謎男 「そう、君の命をBETする、デスゲームだ」
男 「デ、デスゲームだと!ここはどこなんだよ?」
謎男 「君には質問する権利はないと言ったはずだ」
男 「一応ここは日本か。お前は日本語話してるもんな」
謎男 「……ゲームをクリアしない限りこの部屋から出ることはできない、ゲームに失敗すればその首輪が爆発する」
男 「なんだと!なんでそんなことを……なんで俺なんだよ」
謎男 「理由などない、君は選ばれたんだ」
男 「(部屋の臭いを嗅ぐ)ん?」
男は部屋の匂いの違和感に気がついた。
男 「微かに塗料の匂い…まだ新しい?作ったばっかりなのか?この部屋…」
謎男 「え…」
男は壁の一部を触る。
男「あれ、ここはまだ乾いてない」
謎男 「触るな!」
男 「油性のペンキは乾き悪いからね」
謎男 「うるさい黙れ」
男 「ちょっと待って。ん?この部屋…水平取れてなくない?」
男は目を凝らし、床に顔をつけて呟く。
謎男 「え?」
男 「そもそもがダメじゃん、水平測ってないでしょ?」
謎男 「…」
男 「だめだよ、そういうのちゃんと測ってやらないと」
謎男 「…」
男 「自分でやったんだ。今ね、DIYとか流行ってるけど、基礎的なとこはちゃんと押さえなきゃ。だから所々ずれちゃうんだよ。(少し呆れながら部屋の隅を見て)もうビスも甘いな・・・下穴もんだ?」
謎男 「下穴?もんだ?」
男「え?知らないの?ビスが入りやすいように少し先に穴を開けとくんだよ。やってないでしょ。だから板が割れたりすんの。ちなみにインパクト何ボルト?」
謎男 「インパクト、ボ…ルト?」
男 「インパクトドライバー、ビス打つやつ。3.6ボルトとかだったら笑っちゃうよ?それIKEAとかの家具組み立てとかで使うやつだから。もしこういうのは作るんだったら最低でも14・4ボルトないと」
謎男 「14・・・そうなんですか?」
男 「あとマキタか日立、あ、ハイコーキね」
謎男 「マキタ、ハイコーキ?」
男 「インパクトのメーカー。最初ちょっと高いと思うけど、この先ずっと使えるから」
謎男 「すいません、ちょっとメモってもいいですか?マキ、タ」
男 「うん、いいよ。俺さあ、今は全然違うけど、昔建築関係の仕事ガッツリやってたからさ、こういうの気になるんだよね」
謎男 「はぁ・・・そうなんですね、、知らなかったです」
男 「次こういう部屋やる時は、ちゃんとしたとこに頼むか、ちゃんと測ってやりな」
謎男 「…はい、すいませんでした。ちなみになんですけど、今部屋の壁がどんどん迫ってくるやつ作ってるんですけど…それって見てもらえませんか?」
男 「え?なにそれ?それもDIYしてるの?」
謎男 「はい…なんか一応油圧式のプレス機を使おうと思ってるんですけど、なんかスムーズじゃないのと壁の仕掛けが出てくるスピードが一定じゃなくて…」
男 「ん…まぁ、それは一回図面見せてもらってだね。
つうか明日でも良い?今日仕事で疲れちゃってるから」
謎男 「もちろんす!もちろんす!明日は自分午後からなら何時でも大丈夫す」
男 「了解、じゃあ明日午後にしよっか」
謎男「マジっすかありがとうございます。すいません、今壁開けますね」
ゴガガガガガガー
白い壁がスライドして開いた。
山間の大きな一軒家の庭の一角に建てられた小さな掘立て小屋。
外はまもなく夜が明けそうだった。
男 「あと、首のやつもいい?風呂入る時邪魔だから」
謎男 「そうすね、火薬とオイル入ってて濡れるとマズいんで、明日来た時付け直しますよ」
男「うん、そうしてくれると助かるわ」
カチっという音で首輪が外れた。
謎男 「それは床に置いといてください」
男 「はいよ。ありがとう。んじゃ、明日…昼過ぎで」
謎男 「はい、よろしくお願いします、あ、帰りはここの前の道をずっと下ってって突き当たりを右に行くと、あの拉致ったコンビニの近くの道に出ますので」
男「はいよ」
男は無事釈放されコンビニ寄り、再び軽食と寝酒を買って家に帰った。
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翌日
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ピーンポン
謎男 「お疲れ様でーす」
ドアを開けるとそこには数人の男たちが。
男たち「警察です。ちょっとお話伺えますか?」
完
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