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#25 ベットカーテン越しに聞こえてきた煙論と正論。


投与して一週間。だるさもなくなり食欲も80%くらい戻ってきた頃の病室の話。

岡安の病室は4人部屋で、同じような耳鼻咽喉科系の方とは別に泌尿器科の患者さんもいた。


その方々は何の病気かは詳しくはわからないが
大体2〜4日で手術して退院して行く。


だから、隣の人とお話するとか病気の情報を共有したりといったコミュニケーションはなかった。


でもカーテン越しには色々聞こえてくる。


イヤフォンしてんだけど歌っちゃう人や
昼寝の寝言がハイパーでっかい人も。
裁判中の速記係?ってくらいめっちゃパソコンを早く打ってる人もいた。



十患者十色。


各々の形で各々の病と闘っていたある日、
看護師さんと今日から入院する患者さんの会話が
カーテンを越えて自然と入ってきた。


看「以上で入院の手続き諸々が完了しました。
ご飯はこの後12時に出てきますので、
それまではゆっくりして下さい。」


患「わかりました。あのさぁ質問してもいい?」


看「はい、どうしました?」


患「ご飯食べた後ってさー」


看「はい、後…なんですか?」

患「タバコを吸いたくなると思うんだけど…」

看「は?」

患「喫煙所ってどこにあんの?」

一瞬空気がピリっとしたのがカーテン越しでも分かった。



看「病院内にはそんなのありませんよ」

患「病院の外も?すぐそこの中庭的なところは?」

看「病院敷地内全て禁煙です!」

看護師さんは諭すというより呆れて少し煙たそうな感じで答えた。

多分他にもこういう方々が結構いるだろうな。
しかし、患者さんは全然めげていない。



患「敷地出れば吸えるの?」

看「出ても喫煙所なんかありませんよ。」

患「え?うそ!なんで喫煙所ないの?」

看「そんなの知りませんよ。歩きタバコもダメですよ。
それは区のルールで指定の場所以外禁煙って決まってますので」

患「えー喫煙者には当たりキツい区なんだなぁ。
んじゃあどこ?その指定の場所って」

看「病院からだと歩いて30分くらいの所の駅らへんに
小さな喫煙所があったかと…」

患「え?遠いなぁ!ん…しょうがない、そこまで行くか…」


え?うそ!諦めないの?行くの?

30分歩いて小さな喫煙所で何本か吸って30分かけて帰ってくるの?凄いな!


患者さんはタールのような粘着性でタバコを吸おうとするが
看護師さんは強洗剤のような正論で軽く洗い飛ばした。


看「ちなみに〇〇さん、外出は難しいですね」

患「なんで?」

看「今コロナもありますので不要な外出は控えて下さい。『タバコを吸いに行く』では多分許可おりませんよ」


そうだよね。しょうがないよ。そういう時だから…

患「じゃあ加熱式はどこで吸える?」


患者さんは新たなカードを切ってきた。


看「なんですかそれ?加熱?そのような物を吸う場所も
ありません!」


患「これ。タバコじゃないよ」


看「ダメです」


たらたらと加熱式の良さ?を論ずる。
ニコチンがどうだこうだ、煙じゃなくて水蒸気がどうだの…

が、

全く響かない看護師さん。

患「屋上は?だったら加熱式吸えるんじゃない?
ドラマとかでシーツ干してるとことかあるじゃん?」

看「屋上は出れませんし、シーツは業者さんに出しているので干してません。」

もうよくわかんない会話になっている。


患「わかったよ、禁煙パイポも持ってきたらか…
これで我慢するか」

切り札の禁煙パイポを出した。

諦めと泌尿器系が悪い患者さんに
看護師さんは丁寧にキレた。

看「もう!その類の物は全てやめてください!
そもそも体壊して入院してるんですから!
我慢して下さい!」


患「…はい。」


ごもっとも!!

愛煙家の患者さんは看護師さんを煙に巻く事は出来きず意気消沈。

シケモクのように体を押し曲げて布団に
潜り込んだ音がカーテン越しに聞こえた。

                     つづく

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