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#48 嫁さんが腕に縒をかけて作ってくれたぶり大根…拒絶反応が出てしまいました。

退院して3日。
喉の痛み、皮膚の炎症はまだまだ回復中な感じ。
味覚も不調で味がわからない状態が続いているのだが、心はいつになく穏やかだった。
お家で過ごす時間は本当にいい。落ち着くし安らぐ。

この日々の当たり前を噛み締めていると、部屋に鰹と昆布のダシのいい香りが漂い出した。

「あれ、なんか作ってんの?」
「岡ちゃんの体のことを考えてぶり大根作ったよ」
「え?本当に」


泣ける、本当にありがとう。感謝しかない。

ただ…

ゆうちゃんには伝えていなかったが、
入院中一番で苦手になってしまったのが魚系。
一度だけ出てきた鰻は大丈夫だったが、他の日に出てきた魚はやはりだめだった。
特に匂いなのかな?
その時ぶりの魚…ぶり大根…
いけるか?いけないか?
よりによってなぜ魚?
ハンバーグとかオムライスとかじゃなくぶり大根。

抗がん剤治療、放射線治療後に感じるにおいや味の変化

 「炊き立てのご飯のにおいがダメ」
「 肉や魚のにおいが臭くて食べられない」
「温かい食事の匂いが不快」
「味、においがわからないので料理がうまくいかない」  などがあります 。

この原因は抗がん剤や放射線の副作用と考えられています。においは、鼻の粘膜にある細胞ににおい物質が付着し、神経から脳に伝達され認識されます。
抗がん剤頭頚部放射線治療によって、細胞の再生が不十分だったり、神経伝達になんらかの障害が起き、においを感じなくなったり、逆に敏感になったり、本来のにおいとは異なるにおいに感じたりすることがあります。

                  岡安診療所調べ



「レシピ見ながらだけど上手にできたよ」
「ゆうちゃん、ありがとう、ただ今あんまり味わかんないんだよね」
「そうだったね、だけどいっぱい食べて栄養つけなきゃ」
「うん…あと実は魚系が…」
「いいからいいから一口食べてみて…」

大根は煮崩れしないように角が取ってあり、しっかりダシが染みている。ぶりの身も今にもトロけほぐれそうな容姿で美味しそうに盛り付けられていた。素晴らしい。


でも恐る恐る口に運ぶ。

うわ!

あの感じ、煮魚の匂い?
入院時の”気持ち悪い”がブワっとよみがえってしまった。

「どう?」
「ん…やっぱ味がわかんないな」
「味はしょうがないね、でも美味しいんだよ。どんどん食べて」
「あの…入院中になんか知らないけど魚が苦手になっちゃってさ…」
「これは病院のじゃないから大丈夫、魚は体にいいから、もう一口食べて」

なんだかよくわからない理由を添えて皿を近づけるゆうちゃん。
それとなくわす岡安。
このラリーが何回か続いた。

「わかったわかった!気持ちは十二分に伝わってるよ、本当にありがとう。でも今日は大丈夫、明日食べるから置いておいて」
「だめだよ、今食べて」
「だからいらないって!」

力尽くで無理矢理食べさせようとするゆうちゃん。
抵抗をつづける岡安の口に強引にぶりをぶっ込んできた。

うわ!ぺっ!


反射的にやってしまった。

ゆ「あーーーーーひどい!せっかく作ったのに!ツバはいた!」

正確にはお皿にツバを吐いた真似をしただけ。

岡「だって無理やりやるから!」
ゆ「最低!もう一生ぶり大根作ってあげない!」

このぶり大根強引詰め込み事件をきっかけにゆうちゃんは本当にぶり大根を作ってくれなくなってしまった。

ごめんなさい。
味がわかるようになったら絶対食べるからね
そん時また作ってくださいな。

                 つづく


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